<最新の記録>
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僕は息をきらせつつ会場に入った。すでに選手たちが準備を終えている。その位置どりを見て、僕は驚いた。
皆が会場の右端に集まっている。それも非常に狭い場所に密集している。隣の人と肩をぶつけそうなほどだ。
ナイトが前方に並び、その後ろにエルフの弓部隊が並ぶ。前線のナイトの中に彼の姿があった。僕は咄嗟に思った。――これでは戦争だ、と。
難関のウェルダンUBを制覇するために遠い国で考案されたという新しい戦法だ。それがついにこの国にも持ち込まれた。
出場者が会場の端に寄ると、そこから遠いモンスターたちにはそれが見えず、まったく攻撃しようとしない。つまり見える範囲のモンスターだけを相手にすればいい。
しかし欠点もあった。倒されないモンスターは最後まで残る。フェニックスが登場するころには、会場の半分は多量のモンスターで埋まっている。下手に前進しようものなら、彼らがいっせいに襲い掛かってくる。
作戦は順調に進んでいるかのように思えた。しかしボス戦に向けて各人が動き出すと、固まっていたモンスターがいっせいに襲い掛かり、作戦は瞬く間に崩壊した。
前線にいた彼も一気に押し寄せたモンスターに囲まれた。右端に固まっていた彼らに逃げ場所はない。前はモンス、後ろも横も壁だ。彼はまだ戦おうとしていたが、作戦を指揮していた者も、他の参加者も次々といなくなった。彼はモンスターに飲まれて見えなくなった。しばらくして、彼が他の出場者と共に倒れているのを見つけた。
出場者はそれぞれ戸惑っているように見えた。みな指示を待ちながら、目前に迫ったモンスターを倒すので精一杯だった。そうして皆がやられていった。
終了後、彼に会うためにウェルダンを歩いていると、作戦を指揮していた男エルフとすれ違った。この男エルフこそが、この作戦を持ち込んだ本人だ。
男エルフは友人に愚痴をこぼしていた。「作戦に従わない連中がいるから成功しない」。
男エルフのもどかしさも理解できたが、同時に、きっとこの作戦は定着しないだろうと思った。先に僕は、これを戦争みたいだと言ったが、もしも「戦争に負けたのは言うことを聞かない連中がいるからだ」と、一度の敗戦でぼやく君主がいたとしたら、誰がその君主に最後までついていくだろうか。
友人のナイトは傷だらけの姿で僕を待っていた。もの凄い数のモンスターに囲まれ、逃げる暇も場所もなかったという。僕はモンスターに飲み込まれる彼の姿を思い出した。見ているだけの僕がぞっとする大群だった。
彼は高価な薬を多量に使った。この作戦では途中の配給も受け取れない。大赤字だろう。しかも、ろくに戦うことができなかったそうだ。彼は何度か、悔しそうに膝を叩いた。
僕は、さっき聞いた男エルフの言葉を彼に伝えようかどうか迷った。でも彼の顔を見ていたら言わないでおこうと思った。
彼も腑に落ちない顔をしていた。作戦は会場に入ってから急に説明があったという。統制が取れないのも当たり前だった。彼は一言、「誰だってまだ手探りなんだ」と弁護した。ウェルダンUBを完全制覇するためにはどうしたらいいのか、皆が探しているのだろう。
僕は、これからもこの作戦が続くのだろうかと彼に尋ねた。彼は分からないと答えた。「皆の賛同が得られるなら続くかもしれない」。
そう言うと、彼は回復薬をいっぱいに買い込んで狩り場に向かった。次のUBに出場するお金を稼ぐためだ。
もしもこの作戦が定着するなら、走り回ってバッタバッタと敵を倒していくナイトや、ナイトを援護しながら厄介な敵を遠距離攻撃で倒していくエルフや、恐ろしいモンスターたちを引いて競技全体の流れをコントロールするウィザードの妙技が見られなくなるかもしれない。それは寂しい。けれどフェニックスを倒すところも見たい。僕はとても複雑な思いがした。