リネージュ日記
<オリムへの道・マインドベルト・療養>


 「オリムに行ったことある?」と唐突にElwing氏が訊いた。オリムとは、メジャーランドケイブ(MLC)の最下層にいる高名なウィザードのことだ。彼はあの危険な遺跡の最下層に籠もっている。一体何をしているのだろう。魔法の研究でもしているのだろうか。それとも身を隠しているのか。
 とにかく、そのオリムのいるMLC7Fというのは、いずれ行く機会も増えるだろうということだった。僕はまだ行ったことがない。じゃあ一度行ってみよう、と話はすぐにまとまった。
 Elwing氏の代わりに、案内役は五代雄介氏が務めてくれることになった。加えて、クランの先輩ウィザードである妙命陰陽も同行することになった。
 オリムのいるMLC7Fには、もちろんMLCをずっと下っても行けるのだけど、より安全な近道があるらしい。それが話せる島の洞窟(TIC)から繋がるデビルロードだ。
 通常、話せる島と大陸の間は船で行き来する。このデビルロードは海底にある長い洞窟で、話せる島と大陸を結んでいるのだ。距離はそれなりにあるが、強いモンスターがいないので、簡単にMLCの下層(6F)まで行くことが出来る。

 話せる島に集合し、まずはTICへ。ヒューイやルーパスは連れていかない。この洞窟では途中でテレポートする場所があり、犬を連れていても、そこではぐれてしまうのだ。
 3人で1Fの曲がりくねった道を進み、まずは2Fへ降りる。ここまでは僕が案内した。僕は話せる島に長い間いたから、結構知っているのだ。ただ広い部屋の続く2Fからは五代氏が案内してくれた。だが、氏は道を忘れてしまったようだ。方向は合っているはずなのに、道が見つからない。
 僕はそこで思い出した。以前、このTICで一人で狩りをしたことがあった。ヒューイもルーパスも連れずにだ。あの時、不思議な場所に入ったことがあった。あれこそがデビルロードの入口だ。僕はその道を覚えていた。こっちだと指差すと、五代氏も思いだしたようだ。デビルロードの入口である魔法陣はすぐに見つかった。

 デビルロードは果てしなく長い。だが出てくるモンスターは弱い。ただひたすら歩くだけだ。

 やがてデビルロードの終着点に着いた。MLC6Fへと通じる魔法陣が静かに佇んでいる。
 僕らはそこで休息を取った。まずはマナを回復させる。装備を確認し、ここで変身をすることになった。僕にとっては2度目の変身だ。この先からは一気に敵が強くなる。ケルベロスやキングバグベアーなどがいるという。ケルベロスなんて、物語の中でしか聞いたことがない。ケルベロスの吐く炎を想像しただけで、ぞっとしそうだ。
 でも大丈夫。こういうことは何度も繰り返してきた。今までだって、意外と平気だったじゃないか。きっと大丈夫だ。それに強い仲間もいる。そう自分に言い聞かせて、2人の後についていった。まず目指すのはオリムだ。

 が、五代氏はここでもやってくれた。あっという間に迷ってしまう。あまりに自信たっぷりに歩き回っているものだから、全員彼に任せきりで、すっかり現在位置が分からなくなってしまう。見かねた妙命氏が辺りをキョロキョロし始めた。彼女はすぐに現在位置に気づいた。「こっちです」と先導を始める。
 妙命氏は冒険の経験が豊富で、判断の早い人だ。無駄が無く、そつが無い。集団で戦闘している時の回復のタイミングも的確だし、同時に、ちゃんと自分も攻撃に参加している。まさに最前線で戦うウィザードだ。彼女の姿を見ていると、僕はまだまだ勉強しなければならないことが多いと思う。
 程なくして、僕らは無事にオリムの元へと辿り着いた。

 そのあとは、しばらく3人で狩りをした。3人なら楽勝で、楽しく狩りをすることが出来た。こういう集団での戦闘も、これからはもっと体験していかなければいけないかもしれない。いつか出会ったプリンセスの言葉を思い出した。いつまでも一人ではいられない。もっと大きな目標を目指すなら、仲間と共に戦う経験も必要だろう。



 驚いた。いつものようにブラックナイトを狩っていて、普段通りにフローズンクラウドを一撃加えたら、なんと土手の向こうに大量のブラックナイトが潜んでいた。僕の放った魔法は、どうやら彼らを激しく刺激してしまったようで、合計24人ものブラックナイトが僕に襲いかかってきた。必死に抵抗をしたのだけど、そんなの倒せる訳がない。あっという間に僕の周りは黒ずくめ。右も左も前も後ろもブラックナイト。ヒューイやルーパスは姿さえ見えない。目の前にあるのはブラックナイトの黒い体と、大きな盾と、彼らの振り回す黒く長い槍ばかりだ。その槍が僕の体を目掛けて一斉に突き立てられる。痛いなんてもんじゃない。僕は慌てて町に帰還した。ヒューイとルーパスも傷だらけだ。
 驚いた。本当に驚いた。まさかあんなに沢山のブラックナイトが潜んでいるなんて。これまで16人は見たことがあったし、倒したこともあるけど、さすがに24人は無理だった。こんなこともあるんだ……。



 狩り場にスケルトンやスパルトイが多い。というのは、変身している人のことだ。つまり本物のスケルトンではなく、人間なのだ。だから狩ろうと思っても狩れない。狩り場で彼らに会うと、しばしば、本物のスケルトンなどと間違えてしまう。歩み寄り、攻撃態勢を取って、ようやく人間なのだと気付く。
 多くの場合、彼らはサモンモンスターや犬を連れ歩いているので、それで区別を付ければいいのだけど、中には一人で歩いていたり、あるいは、連れをずっと引き離して足早に動き回っている人もいる。そういう人を見かけると、僕はどうしても見間違えてしまう。出来れば、ここのようにスケルトンなどが多く出現する場所では、オークなどに変身してくれると有り難いのだけど、そうもいかない理由があるのだろう。いつか事故が起きそうで不安だ。



 マインドベルトを買った。これはマナを溜めておけるものだ。つまり魔法がもっと多く使えるようになる。でも非常に高かった。なんと200万アデナもした。安い物もあるのだけど、どうせなら高いものを買った方がいいと勧められ、一生懸命お金を貯めた。
 これで所持金が一気に減ってしまった。もちろん使うために貯めていたのだけど、これだけのお金が一気に無くなると、なんだか非常に寂しい気がしてしまう。これを貯めるのに、またどれだけの時間がかかることか……。けど、装備や薬に莫大なお金のかかるナイトと比べれば、ウィザードの僕はまだお金を稼ぎやすいのだそうだ。


 マインドベルトの効果はかなり実感できる。魔法に余裕が出来たことで、気持ちにもゆとりができる。狩りの時の余裕にも繋がっていると思う。いい買い物をした。やっぱり良いものを買って良かった。
 気をよくした僕は、他にも欲しい物ができた。魔法の力で知性が豊かになるアミュレットだ。俗にINTアミュなどと呼ばれている。これをつけると魔法が使いやすくなる。魔法の効果も上がる。でもこのアミュレットも非常に高い。やっぱり200万アデナぐらいするのだ。
 一度だけ、Elwing氏から借り受けて使ってみたことがある。これもなかなか効果が実感できるものだ。氏の言うことによれば、今後、これらのアイテムが重要になってくるらしい。僕にはよく分からないけど、きっと氏の言うことだから間違いないだろう。



 クランで雑談をしている時に、妙命陰陽氏からウィザードの戦い方を教えて貰った。以前、氏と一緒にオリムの元を訪れたときにも感じたのだけど、僕は全てにおいて行動のタイミングが遅いようだ。まだまだ経験が足りない。次に何が起こるか。何が必要か。戦いながら常に次の行動の準備をしておかなくてはならない。とても難しいことだ。妙命氏や、そして他の力ある冒険者達は、それを難なくやってのける。やはり彼等は凄いのだ。たとえ装備を近づけても、いくら狩りで稼いでも、やはり自分自身が成長しなければ意味がないのだと痛感した。


 妙命氏に言われたことを頭の隅におきつつ、しばし訓練がてらの狩りをした。最初はやはり戸惑ってしまう。しばしば失敗をし、モンスターに囲まれて危険な状態に陥ることもあった。その度に、やはり自分が今までしてきた方法の方がいいのか? と疑念が過ぎってしまう。それを振り払い、アイテムを浪費することで訓練を続けた。
 しばらくすると、この狩りの方法にも慣れてきた。薬の消費量も落ち着いた。やはりタイミングだ。敵の行動を見て、わずかに早く次のアクションを起こす。危険になってから慌てて対処しても遅いのだ。感じが掴めてくると、面白いようにブラックナイトが倒れる。先人の知恵とでも言おうか。やはりこの方がいいようだ。薬を消費する量が激減し、狩り場に長くいられるようになったことが、それを証明している。



 夜のケントでのんびりと過ごした。最近あくせくし過ぎている気がする。狩り場でのミスが多かったのもそのせいかもしれない。
 焦り……。僕は一体何に焦っていたのだろう。前よりも格段に力はついているはずなのに。お金だって十分に稼げる。クランに入り、仲間も出来た。これ以上、僕は何を求めているんだろう。強い敵? 稀少なアイテム? 強力な魔法? それとも自分自身の強さ?

 ゴロウに会いに行った。最近一緒に旅をしていない。きっともう無いだろう。そんな気がする。ゴロウには、今のような激しい狩りは向いていない。小屋の中で寝そべっているゴロウは幸せそうだ。かつてはそれが不憫にも思えた。でもゴロウは不満など感じていないと思う。僕がこうして時折会いに来るのだって、ゴロウにとっては一つの楽しみに過ぎないのだろう。癒されているのは、やはり僕だった。
 ゴロウが今の生活を気に入ってくれているなら、それは僕にとっても幸せなことだ。預けられた小屋で、ゴロウはすやすやと眠る。退屈な日常を楽しんでいるようだ。ゴロウは自分の居場所を見つけたに違いない。
 僕の居場所は一体どんな場所だろうか。



 アグル氏が新しい血盟を立ち上げた。お祝いにと、倉庫にしまってあった保護マントとTシャツを贈った。どちらもそれなりに価値のある必需品だ。ブラックナイトを倒した時に手に入れた。僕は自分の物を持っているし、予備もある。本来は戦利品として売ってしまうべきものだったのだけど、とっておいたのが役立った。アグル氏も喜んでくれた。
 アグル氏のお祝いにと、猛者通信氏も駆けつけた。お祝いといっても、ケント城村の隅で立ち話をしただけで。話がどんどん膨らんで、最後には人のいない倉庫に陣取って大騒ぎをした。斬り合って遊んだり、魔法をかけて遊んだりした。あまりに僕らが大騒ぎするもので、外にいた物売りの人が何事かと覗き込んでいた。迷惑を掛けてしまったかもしれない。

 実は先日、血盟を立ち上げる件でアグル氏と会った。血盟員を集めるため、血盟の主義を文書に起こしたので、それを読んでみて欲しいということだった。僕は文章のことはよく分からないけど、何か少しでも協力できるかと思って、快く引き受けた。アグル氏が不安そうにしている気持ちも分かる。期待と不安が綯い交ぜになって所在ない気持ちだろう。この大陸に向かった時の僕がそうだった。
 文書からは彼の熱意が伝わってきた。彼が掲げた約束事は至極簡単。みんなで楽しもう。みんなというのは血盟員だけではない。狩り場で会う人。町で行き過ぎる人。いがみ合いを助長せず、多くの人と楽しく過ごせるように心がけよう。それだけだ。

 これからアグル氏は、君主として忙しい日々を送ることになるのだろう。立派な君主になって欲しい。彼は自分の果たすべき、そして目指すべき道を見つけたのだ。僕の前には、どんな道があるべきなのだろうか。



 狩り場で獲物を横取りしてしまった。平謝りした。焦ると良くない。本当に、僕は何を焦っているのだろう。



 最近、手が痛いと感じていた。けれど僕は戦うことに一生懸命だった。もっと強くなりたい、という感情が湧いていた。手の痛みなど大したことがないと思ったのだ。
 ところがそれがいけなかった。痛みは急激に酷くなり、ついには激痛とでも言えるような状態になった。結局、僕は怪我で療養するハメになった。何て事だ。これもきっと、僕の焦りから来たものだろう。
 でも考えようによっては、これは良いことなのかもしれない。このままでは、重大な失敗をしてしまったかもしれない。ここで一つ気持ちを落ち着けるのもいいのかもしれない。
 のんびりと過ごすことにしよう。きっと、それで見つかる何かもあると思う。



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