リネージュ日記
<ホームタウン・魔界へ続く道・DVオーガ・二度目の忘れられた島へ・アジト見学>


 ホームタウン契約を行った。僕が選んだ場所はケントだ。BK荒れ地に近いし犬も預けられる。それに買い物に便利だ。
 ホームタウン契約をすると、モンスターを倒した功績に従って町から報酬が貰える。報酬の出所は税金、つまりは僕らがアイテムを買った代金の一部だ。こうしてお金というのは回っているんだと実感した。

 登録料として2万アデナぐらいを支払った。報酬がどの程度になるのか分からないけど、払った分はしっかり取り戻そう。



 クランの人達と象牙の塔へ向かった。目指すは8F。塔の最上階。初めての場所だ。
 象牙の塔は、魔界へと通じていると言われている。ときどき魔界との扉が開き、モンスター達が魔界から押し寄せるという。デーモンはその主だ。もしもデーモンが出たら、僕など瞬きする間もなく死んでしまうだろう。

 最上階は、それ以下の階とは性質がまったく異なっていると聞いた。モンスがいないのだ。だが安心はできない。歩いていると突然モンスが周りに出現するという。アイアンゴーレムやリビングアーマーなど。ときには数十匹に及ぶモンスが次々と現れるという。想像だけで恐怖で足が竦みそうだ。

 いよいよ8Fに上がることになった。僕はひとつ深呼吸をした。クランの人達についてテレポーターに乗る。目の前に――黒い壁があった。アイアンゴーレムの群だった。僕は焦った。何も出来ぬままに昏倒していた。そう言えばこんなことが前にもあったなと、気を失う間際に僕は思い出した。

 先に上がったクランの人達の話によれば、8Fに上がってすぐにアイアンゴーレムが出たそうだ。彼らは冷静にアイアンゴーレムの間をぬってそこを離れた。アイアンゴーレムは足が遅い。狭い場所では確かに怖いが、広い場所まで引いていけば安全に倒せる。
 だが後から上がってきた僕は焦ってしまった。気が付いたときにはもう逃げ場がなかった。

 いきなりの洗礼だったが、あとは順調に狩りを続けた。最上階には階段があった。まだ上に続いているようだ。けれどその階段は厳重に封印されていた。この先に魔界への扉があるのかもしれない。もしもその封印が解けたらどうなるだろう。僕はそのときの恐怖を思い描いてひとりで震えた。

 塔8Fでの狩りはモンスが突然、しかも多量に湧くことがある。狭い場所では気を付けなければならない。だが、それを除けば案外楽な狩り場だった。おまけにモンスが多量に出る。まさに湧くという表現がピッタリの登場だ。たまに多量に湧きすぎてびっくりするが、それもまた楽しい。大勢で来るにはピッタリの狩り場だろう。


 塔での狩りは、妙命氏が抜けることで終了した。僕は、一緒にいた君主のMao氏に連れられてDVのオーガを狩りに行った。
 DVでのオーガ狩りは初めて。僕がオーガを見たことがあるのは、オーク達のいるOTで偶然遭遇したのが1回と、あとはケント城周辺だけだ。DVにオーガがよく出る場所があると聞いていたけど、怖くて一度も来たことがなかった。
 DVというのはドラゴンバレーのこと。実際にはドラゴンなど出ないが、オーガやコカトリスのような強いモンスがあちこちに出る場所だ。とても一人で行く気にはならない。
 まだ行ったことがないと僕が言うと、Mao氏はそれなら案内してあげると先鋒をかってくれた。

 オーガにはそれぞれ縄張りが決まっているらしい。だからみな、特定の場所を行き来している。僕もMao氏に連れられてその縄張りを巡った。
 もちろんここで狩りをしている人はそれを知っている。オーガを他の人より先に見つけられるかどうかが、ここでの狩りのポイントとなる。強力なアンデットたちを薙ぎ倒しながら、誰もが足早に動いているのが印象的だった。

 普段はあまり見ないオーガとの戦いにはドキドキした。オーガはとても貴重なアイテムを稀に持っている。今回は手に入らなかったけど、いつかそういう物も自分で手に入れてみたい。



 ルーパスがやられてしまった。しかも普段戦い慣れたBK荒れ地で。
 俗にBK荒れ地と呼ばれるグルーディオ東の荒れ地では、8人のBK――ブラックナイト――が各地に隠れた君主を捜索して歩いている。
 彼らは反王ケンラウヘルの勢力だ。僕らからみれば敵。もちろん彼らから見て僕らも敵。出会えば戦闘になるのは必然だ。彼らの持つアイテムを目当てに通っている者も多い。僕もそのひとりだ。慢心しているつもりはないが、ここでの狩りは慣れたものだ。BK達の動きもだいたい分かっている。多少ピンチになることがあっても、それはあくまで予想されたピンチだ。慌てる程じゃない。

 ルーパスがやられたときの状況はこんな感じだった。まず僕がBKに攻撃をしかけると、彼らは左右にわかれた。一方は僕へ、もう一方は僕からは見えない丘の向こうに走っていった。
 それ自体は特に珍しいことではない。きっと向こうから別の人が同時に攻撃をしかけたのだろう。ヒューイとルーパスは離れていくBKを追っていった。
 僕は犬笛でルーパスとヒューイを呼び戻し、ひとまず目の前のBKを片づけることにした。目の前の危機を脱してから一言謝りに行こうと思った。

 だがルーパスが帰ってこなかった。嫌な予感がして、僕はルーパスを追った。そこには誰もいなかった。BKに囲まれたルーパスが必死に戦っていた。
 どうやら僕と同時に攻撃した人は、気を利かせてテレポートしたらしい。敵を見失ったBKたちは、残っていたルーパスを唯一の敵とみなして攻撃したのだ。
 僕が駆けつけたとき、ルーパスはその場に倒れるところだった。



 忘れられた島へ渡った。これで二度目だ。同じクランのMao氏と妙命氏。他にエルフ2人、ナイト3人という構成。総勢8人の大所帯だ。
 いつも死と隣り合わせと思われる忘れられた島も、これだけの面子が揃っていると気楽だ。普通の狩り場とそう変わらない感じになる。多量にモンスが出現しても、気が付けば全て倒されてしまっている。なんだか拍子抜けするほどだ。

 忘れられた島ではお金は稼げない。渡航費用だけで赤字だ。だが忘れられた島は、島全体が古代文明の遺物のようなものだ。いまはもう製造もできない古代のアイテムが手に入る。これらの貴重なアイテムを目指して多くの冒険者が訪れる。僕らもそれが目的だ。

 しばらく狩りをしていると、男エルフが感嘆の声をあげた。彼が掲げた手には、キラリと光るものがあった。金色に輝く指輪だ。真ん中の宝石が陽光を浴びて光を放っている。マジックレジストリングだった。忘れられた島で手に入る物としてはそう高くはない。でも、これで赤字は免れるとみな胸を撫で下ろした。

 狩りが終わって、マジックレジストリングを売って分配することになった。結局手に入ったアイテムはこれだけだった。
 するとMao氏が、せっかくなので買い取ったらどうかと僕に勧めた。マジックレジストリングは、その名の通り、魔法防御力の上がる指輪だ。これから狩り場を増やしていくなら持っておいた方が良い。今なら市価よりも安い価格で買い取ることが出来る。
 僕は持っていたお金を分配し、マジックレジストリングを手に入れた。



 アジト競売の噂は本当だった。アデンで大規模なアジトの一斉売り出しがあるという。売り出されるアジトの数は50をゆうに数える。予想以上の規模だ。これなら僕らのような小さなクランでもアジトを買うチャンスがあるかもしれない。

 問題はお金だ。アジト貯金は順調だったが、やはり時間が足りないようだ。目標金額にはほど遠い。もっと頑張らないと間に合わない。

 お金を集めるため、ナナミィ氏に手伝ってもらうことになった。彼は見た目通り気さくで優しい人だ。だが少々慌て者だし、ちょっとばかり短気でもある。怒った次の瞬間にはもう笑っていることもある。なかなかに飽きない人だ。

 僕はかつての友だちを思い出した。その中の一人は、いつも笑いながらみんなの輪に飛び込んでいた。彼はナナミィ氏と似ていた。いや、ナナミィ氏が彼と似ているのか。彼は背が低く、どちらかというと骨張っていた。外見はちっとも似ていないが、ナナミィ氏の姿は僕に彼を思い起こさせた。
 彼はいま何をしているのだろうか。――思い出すはしから、首を振って感傷を遠ざけた。たぶん忘れてしまった方がいいのだろう。



 クラン員みんなでアデンに向かった。こんなに集まるのは珍しい。僕らのクランではクラハン(クランハンティング)もあまり行わないから、こうして大人数が集まることは珍しい。
 目的はアジトの視察だ。みんな興味津々で、はしゃぎながら広いアデンを回った。

 売りに出されるアジトの数は60と少し。これを全て回ることは無理だ。事前に幾つかピックアップしておいたところを回った。倉庫の近く。犬小屋の近く。店の近く。便利な場所だ。良い物は人気も高い。早くもそれなりの価格がついているところもあった。
 一番のお気に入りは、町の中央から南西に少し行ったところ。大通りからも少し入った閑静な場所だ。一見町の外れだが、倉庫に近く、犬小屋にも近い。とても便利な場所だ。しかもアジトが何軒か並んでいる。競争率は高いだろうが、その分だけの数はある。どれかひとつぐらいなら、僕らでも手に入るかもしれない。

 実はアジトを持つことに消極的な意見もあった。僕にも迷いがあった。
 普段、僕はケントを拠点に狩りをしている。BK荒れ地に近いし、店も近く売買もし易いし、適度に空いているのが便利だからだ。だがアジトを手に入れるとアジトが中心になる。アデンは大きいが、それ故に不便な町でもある。アジトは高価だし、場所によっては今より不便になってしまう。本来、僕らのような小さなクランには必要のないものかもしれない。

 でもみんなとアジトを見て回るうち、やはりアジトが欲しいと思った。そのためにはお金が必要だ。もっともっと頑張ってお金を稼がないといけない。



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