リネージュ日記
<防具強化への道・雪・氷の女王>



 今日は敢えて蟻穴に行ってみた。あの時は抜け出すのに必死だったけど、あの穴には大量の蟻が出る。蟻は狩りには向いているのだ。砂漠での狩りよりも、遭遇率が高くて効率がいいかもしれない。その分危険は伴うかも知れないけど。
 砂漠の真ん中にある穴。いつもは遠目に見るだけだけど、思い切って飛び込んだ。砂と一緒に体が埋まり、目の前が真っ暗になった所で、不意に宙に放り出されるような感覚が襲う。直後、どすんと鈍い痛みが尻に響いた。そこはもう蟻の穴だ。ヒューイもルーパスも無事に蟻穴に入れたようだ。さっそく蟻を探して洞窟内を彷徨った。
 歩き回る必要もなく、蟻は次から次へと出てくる。ジャイアントアント。ジャイアントアントソルジャー、通称GAS。砂漠ならスコーピオンが出るのだけど、ここでは出ないのが残念だ。スコーピオンは良い訓練になるし、稼ぎがいいのだ。
 蟻は止めどなく沸いてくる。この奥にはきっと巨大な女王蟻がいて、そこから延々と新しい蟻が産み出されているに違いない。しばし蟻穴での狩りに没頭したが、そう時間を待たず、魔法が尽きてしまって村に帰還した。ここでの狩りは急激に魔法を消費する。まだ僕には早いのかもしれない。



 しまった。やられてしまった! 久しぶりだ。ここの所狩りに慣れていたから気が緩んでいたのかもしれない。砂漠での狩りの最中、スコーピオン2匹とスパルトイを相手にしていた。僕は砂漠を逃げながら奴らに魔法を撃ち、奴らは僕を狙って追いかけ回し、それをヒューイとルーパスが退治する。すっかり慣れた作戦だった。けど、僕はいつものように魔法を仕掛けたあと、砂に足を取られてその場に倒れてしまった。足がはまって動けない。運の悪いことに、僕は相手との距離をさほど取っていなかった。攻め気に逸っていたのだ。おまけに倒れたショックでバックの中身が飛び散っていた。帰還の巻物は一番遠くに投げ出されている。手を伸ばしても届かない。足の抜けない僕が右往左往している間に、スコーピオンとスパルトイが僕を取り囲んだ。僕は必死に散乱した回復薬に手を伸ばした。何とか時間だけでも稼ごうと思った。その間に別の手を考えればいい。でも相手の数が多すぎた。

 気が付くと、僕はシルバーナイトタウンにいた。体は傷だらけで、あちこちが痛い。周りには誰も居なかった。通りすがりの人が助けてくれたのだろうか。荷物もきちんと整理されて置いてある。無くなった物は無いようだ。やっぱり誰か助けてくれたのだろう。
 ほっとした僕は、そこでようやくヒューイとルーパスが居ないことに気づいた。慌てて二人を探した。周りにはいない。僕はウッドベック村に飛んだ。犬小屋に行くと、ヒューイとルーパスはちゃんと待っていた。彼等もすっかり狩りに慣れている。何かあった時には、こういう犬を預かってくれる場所に行って、僕が迎えに来るのを待っていてくれるのだ。

 僕はヒューイとルーパスを預けたまま、一人で村を出た。まず向かったのはギラン。今回のことで決心が付いた。もっと身を守ることにお金を掛けなくちゃいけないんだ。つい先日も、ケント北西の森で偶然会ったバラ姐さんに言われたのだ。
 僕は溜めていたアイテムを売り払った。敵が落としていった武器も売った。いつか使うかもしれないと思っていた防具も。どうせ使わないんだ。それから一部のアイテムを売り払うために、一度グルーディオに飛び、それから戻ってまたギランでアイテムを売った。手持ちのお金は随分増えた。合計35万を超えている。そのほとんどを使い、防具を強化する巻物を買った。そして手持ちのウィザードの服や、エルフの盾などを強化した。魔法の力で、一気に防御力が上がるはずだ。手持ちのお金は2万と少しになった。まぁいい。また稼げばいいんだ。



 防具を強化した具合を確かめるために、話せる島へと渡った。一通りいつもの場所で狩りをして感触を確かめた後、南へと移動。この島の南東になる森と海岸にはドレッドスパイダーやライカンスロープが出る。ここでどの程度戦えるか確かめてみよう。
 森で最初に遭ったのはジャイアントスパイダーだった。難なく撃退。それからドレッドスパイダー。一瞬焦るが、意を決して戦いを挑む。と、多少苦戦はしたけど、前のような決死の戦いでは無くなった。これならまだまだ行けそうだ。
 更に進み、目的地の海岸へと出た。そこへ現れたのはまたしてもドレッドスパイダー。こいつもやっつけてやる。と一歩踏み出すと、背後からカサカサと砂を踏む音が。こっちにもドレッドスパイダー! さすがに囲まれては溜まらない。慌てて逃げ出し、一旦距離を取った。相手は二匹。これこそ強化した防具の見せ所だ。僕は魔法を撃った。この2匹を一度に相手しても戦えるなら、相当強くなっている証拠だ。
 すると、その向こうから長い手足でカサカサ走ってくる奴が居た。今度はジャイアントスパイダーだ。ヒューイとルーパスは、一匹目のドレッドスパイダーと戦っている。僕は焦った。が、何とか3匹なら相手になるかもしれない。そう信じて、距離を取るために砂浜を走った。すると森からまた黒い蜘蛛がカサカサとこちらへ向かってくる。僕は慌てて海の方へと向かった。走りながら、背後にファイアーボールを……と思ったが、準備をしていないことに気づいた。砂漠でのスコーピオンとの戦いに備えて、水属性の魔法を用意していたのだ。改めて準備をしてもいいが、今は余裕がない。奴らに追いつかれてしまう。そうしている間にも、ヒューイとルーパスが何とか1匹退治してくれたようだ。残りは3匹だ。今がチャンスだ。ええいままよ、と残った蜘蛛3匹に向かってフローズンクラウドを撃った。1発。2発。ダメージは与えているようだが、奴らの動きは止まらない。魔法を撃つ動作が大きすぎ、僕は奴らに掴まってしまった。蜘蛛の鋭い牙と爪が肌に食い込む。防具を強化したと言っても、数匹に襲いかかられれば大けがは必至だ。おまけに刺された肌が異様に熱く、体を嫌な目眩が襲った。毒だ。
 ヒューイとルーパスが僕を助けてくれた。群がる蜘蛛たちに飛び掛かった。僕は懸命にそこを抜けだした。急いで解毒を行い、再び距離を取るために走り出した。
 ところが、僕が回復魔法を準備していると、今度は海の方から黒い影が。またしてもドレッドスパイダーだ。せっかく減らしたのにまた増えてしまった。慌てて急転回し、倒木の横を走り抜けた。倒木を乗り越えるのに蜘蛛たちは手間どい、少し距離が空いた。更に、ヒューイとルーパスがもう1匹の蜘蛛をやっつけてくれたようだ。僕は取り敢えず自分の傷を回復させた。ドレッドスパイダーに受けた傷はすぐに治った。
 これなら何とかなるかもしれない。そう思って奴らに向き直った時、僕は信じられないものを目にした。海岸からもう1匹の蜘蛛が! いやそれだけじゃない。森からももう1匹。えーっと、1匹倒して、増えて、もう1匹倒して、増えて、もう1匹増えて、今度も増えて……って、た、助けてくれーーーっ!

 こうして、強化した防具のお披露目は散々な狩りとなった。僕は命からがら村に帰還した。強くなったに違いないという慢心が原因とは言え、もしこれが防具を強化する前だったら、僕は本当に死んでいたかもしれない。良かった……。



 噂が耳に入った。僕が砂漠で過ごしているうちに、話せる島の生態系が急激に変わってしまったそうだ。生態系と言うと大げさに聞こえるが、森に住む動物の種類まで変わったらしい。そこで暮らす人々にとっては大変な出来事に違いない。これもヴァラカス復活の影響なのだろうか。
 実際に島へ行ってみると、前には見なかった動物達が多く見られた。熊やキツネが居たのが、僕にはとても懐かしかった。僕の故郷でも熊やキツネがいたのだ。変わったと聞いていたので、ひょっとしたら殺伐とした雰囲気になっているのかと心配したのだけど、これなら僕にとっては嬉しい報せだ。

 夜、西の岬で狩りをしていた。ホブゴブリンやノール、グールやゾンビなど。ここのモンスター達の顔ぶれは変わらない。でも生態系が変化したことで、見かけ以外の場所で変わっているかもしれない。彼等の強さとか、彼等の持ち物とか。その影響はすぐには分からないけど、いずれ確認されていくと思う。ここはいい稼ぎ場所だったけど、ひょっとしたら、あまり稼げなくなってしまう可能性だってあるんだ。特にミスリルの原石。ここは原石を手に入れるに良い場所だったし、その原石は非常に貴重な武器や防具を制作するために必要なため高値で取引されるけど、それがもし手に入りにくくなったら、当然上等な武器や防具は更に貴重品になる。生態系の変化は、世界のパワーバランスまで変えてしまう可能性がある。怖いことだ。

 狩りをしている最中、ホブゴブリンに囲まれた。以前なら薬を使いまくって何とか堪えた所だが、防具が強くなったおかげで、死ぬほど危なくはなかった。大変ではあったけど。そこへ新たな敵が現れた。アンデット数匹が僕を狙っている。あれがグールなら、さすがにヤバイ。でも僕はホブゴブリンと戦うことに精一杯で、そっちまでは手が回らない。急いでホブゴブリンを退治しようとすると、アンデットに矢が突き刺さった。女エルフが弓を構え、次々とアンデットに矢を放った。ものの2、3発でアンデットは倒れた。ということはゾンビだろう。それにしても強い。
 助けてくれたのは森霧という名のエルフだった。明るく人懐こい人で、互いの獲物を片付けた後に声を掛けてきた。彼女は、僕を助けようと思ったのだけど、獲物を横取りしたのではないかと心配していた。僕の方からもお礼を言うと、彼女はにこやかに笑った。色白の肌と、スラリとした立ち姿が特徴的で、なるほど森に佇む霧のようだと思った。美しい顔に似合わず、"Zombie Hunter"と自らを名乗った。ゾンビ退治はお手の物って訳だ。


 狩りからの帰り道、僕はあることに気づいた。最初は気づかなかった異変だ。狩り場から近くの森で、前にも見た熊を見つけた。熊の毛がふさふさなのだ。よく見てみると、キツネの毛も深い。更に森ではセントバーナードにも出くわした。こいつは確か、本来はもっと寒い地方にいるはずだ。
 そして極めつけのものに僕は遭遇した。氷の固まりだ。いや違う。ただの固まりじゃない。その固まりは動くのだ。そう、アイスゴーレムだ。こんなもの、以前には居なかった。むしろ、この島は少し暖かい場所だった。それがどうして?
 僕はようやく、風が肌寒くなっていることに気づいた。この島にも冬が近づいているのだろうか。それとも、ヴァラカスの出現であちこちに炎の怪物が出現するのと呼応して、この島には逆の影響が出たのだろうか。これから先、とんでもないことが起きなければいいのだけど。



 不思議な出来事があった。不思議といっても怪奇現象の類ではない。本来は真っ当な自然現象だ。ただ、それはこのアデン大陸に来て始めてのことで、僕は大いに驚いた。
 それは僕が話せる島で狩りをしていた時のことだ。気分転換も兼ねて、普段は行かない東端の岬に行った。岬に到着したその時、突然、雨が降り出した。僕は最初焦った。雨の中での狩りはしたことがない。でもただの雨だ。そう思って森を歩いていると、急に風が冷たくなり、雲が厚くなってきた。雨を降らしていた灰色のもやもやした雲は、なぜか重厚な雰囲気を醸し出していた。僕はこの雲の変化を知っている。故郷ではしばしばこの光景が見られた。でもまさか、こんな場所で……。訝る僕をよそに、程なく、雨が変化を始めた。体に当たる雨が弾けなくなり、重さを感じるようになった。落ちる速度もゆったりとなる。雨は、雪へと変わった。
 驚きと共に、僕は空を見上げた。間違いなく雪だ。ふわふわと風に舞い、地に落ちて解けていく。オーレンの地でも雪は見たが、あそこは常に雪で覆われている。こうして降り始めの雪を見るのは久しぶりだ。僕は何だか懐かしくなった。

 でもどうして突然雪など降ったのだろう。そう考えつつも、さして大事とは考え至らなかった僕は、狩りを済ませて村に帰った。人々がざわめいていた。きっと雪のことだろう。確かにこんな場所で降るなんて珍しい。でも僕には慣れたものだ。少しだけ優越感に浸ったあと、僕やようやく思い出した。そう言えば、最近この辺りでアイスゴーレムを見た。あれはなぜだろう。その時、雪の寒さとは違う悪寒が背中を走った。村の人々の顔も、驚きというよりは、畏怖に満ちていた。その口からは、「アイスクイーン」という言葉が漏れた。アイスクイーン、即ち、氷の女王。火を司るヴァラカスに対して、水を司る偉大なる氷の化身。アイスクイーンが復活したのだ。

『一つの力が強くなった時、相反する力は反発して力を強める。オーレンの地と火龍の棲処がそうであるように。』

 僕も聞いたことがある伝説の一説だ。ヴァラカスの復活から十四夜が経った。それに呼応して、アイスクイーンまでもが力を強めたのだ。

 これからこの大陸はどうなってしまうのだろう……。



 雪が降った翌日、話せる島で面白いものを見つけた。そいつはまん丸い樽を積み上げたような姿で、色は真っ白だった。雪だるまだ。昨日降った雪はほとんど積もらなかったのに、誰かが雪をかき集めて作ったのだろうか。綺麗な雪だるまだった。僕も昔、よく雪だるまを作った。でも僕の村の雪はべちゃべちゃで、こんなに綺麗にはならず、いつも泥で汚れていた。
 この雪だるまは僕らが作るものと違い、とても面白みがあった。僕らの作るものは2段だけど、コイツは3段だった。ご丁寧に、手の代わりに木の枝を差し、顔には人参などの野菜で顔を作ってあった。帽子までかぶせてある。本当に雪人間みたいだ。面白い。今にも動きそうなほど上手に作ってある。今度僕も作ってみよう。
 ふとみると、雪だるまの帽子が歪んでいた。雪が解けはじめたせいだろう。僕は帽子を直してやろうと思って近づいた。そして帽子を手に取った瞬間、ごそりと雪だるまが動き始めたではないか! しかも僕に襲いかかってきた。不細工な動きで、あり合わせの枝で作った手を振り回して。体を器用に揺すって前に出る。しかも意外と遅くない。僕は本当に驚いた。上手に出来ているはずだ。コイツは人が作ったものじゃない。アイスゴーレムと同じく、アイスクイーンの力で生まれた化け物だったのだ!
 かりそめの命を断たれた雪だるまは解けて崩れた。まるで陽光に晒された本物の雪だるまのように。雪の固まりの上に、枝と帽子が寂しげに残っていた。なぜだか僕は、少し故郷が懐かしくなった。意地になって飛び出したきりだ。未練もない。この地での暮らしにも慣れた。目標もだんだん見えてきた。狩りの仲間もいる。ゴロウ達もいる。ここでは、村の暮らしでは得られなかった様々な物が、僕を奮い立たせ、満足させてくれる。それなのに、どうして寂しくなるのだろう。
 故郷では、今頃は実りの季節だ。子どもの頃によく遊んだ山では、柿や栗を取った。遊びに熱中して人の山を荒らし、怒られたこともあった。川では繁殖期の魚が体を輝かせている。動物達も冬に備えて肥え始める頃だ。毛も抜け、ふさふさの冬毛になる前の斑ハゲになる。あの不細工な毛皮をみると、冬が近いのだと思う。もうじき、遠くに見える頂には雪が積もるだろう。空は澄んで美しくなり、高い雲が足早に流れる。風も強くなる。何もかもが移ろっていくのだ。



 最近は強くなったこともあって、装備を軽くするように心がけている。以前は予備の回復薬だとか、移動が早くなる薬だとかを多量に持ち歩いていたのだけど、その必要が無くなってきた。荷物を軽くすれば、それだけ狩りで手に入れた物をたくさん持てる。つまり成果が上がるという訳だ。おかげで1回の狩りで稼げる量が多くなった。
 ところが、そのせいで今日は危険な目にあった。砂漠でリザードマン退治をしていたところ、リザードマン十匹以上に追いかけられている男エルフが居た。彼は僕に助けを求めてきた。僕はすぐにファイアーボールを連発した。が、リザードマンの数はあまりにも多かった。ひょっとしたら20匹近くいたかもしれない。おまけに倒しても倒しても周りから集まってくる。距離を取りたいのに、どちらへ向かっても新手が出てくるのだ。掴まらないようにあっちへこっちへと方向転換を余儀なくされ、一瞬袋叩きにあっては、辛うじて逃げ出すという繰り返し。当然怪我もするので薬を使う。が、長旅に向けて荷物を軽くしていた僕は、薬を少ししか持っていなかった。なけなしの薬はあっという間に残りわずか。魔法で回復しようにも、幾度となく放ったファイアーボールで魔法は尽きかけている。最初に追いかけられていた彼が体勢を立て直し、僕に回復魔法をかけてくれた。おかげでようやくリザードマンを退治することが出来たのだった。
 男エルフ――名前は聞きそびれてしまった――と軽く言葉を交わした後、僕は補給と休息のために、一番近いシルバーナイトタウンに戻ることにした。が、歩き始めた途端、また新たなリザードマンが。まぁ1匹ぐらいなら倒していこうと思って甘く見たのが運の尽き。次から次へと加勢がやってくる。あっという間にリザードマンは10匹余りに増えてしまった。僕は何とかリザードマンのテリトリーから逃げ出し、これ以上新手が現れない場所まで逃げた。そこで時間をかけ、どうにか退治したのだった。町に帰り着いたときには、本当に魔法も薬も残っていなかった。ほんと、狩りではなにが起きるか分からない。



 ケント北西の森では、氷の力が強くなっているようだ。火の生物や創造物が見られた数日前とはうって変わり、今は氷の化け物達が闊歩している。見慣れない怪物達には僕も何度も驚いた。一番驚いたのは何か。白い胴体に黒い縞模様。大きな虎のような姿。そしてあの、口から突き出した大きな牙。そう、サーベルタイガーだ。こんなものをここで見られるなんて。
 更にはのっぺりとした白い巨体を揺すりながら歩くイエティ。オーガには及ばないにしても、コイツの大きさは驚くに十分だ。
 とはいえ、最初こそ驚いて逃げることも多かったが、彼等と戦うのも良い訓練になる。すっかり慣れてしまったウェアウルフやホブゴブリン、ドワーフなどでは、もはや練習にならないのだ。せっかくなので、いつもとは違う敵を相手にしっかりと狩りの訓練をしておこう。
 と思ったのはいいのだけど、森の北、ギランにほど近い辺りに入った途端、そこには僕の予想を上回る数の氷の生物達がいた。サーベルタイガーが何匹もいるのだ。そしてアイスマンという、雪で出来た人型の創造物。コイツがノソノソ歩くクセに、意外に足が速い。数も2、3匹まとめて現れることがある。ここに出てくる奴らは総じて体が頑丈で、倒すのに時間がかかる。それが2匹も3匹も出てこられてはたまったものじゃない。何とか辺りの化け物を退治した頃には、魔法もほとんど尽きてしまっていた。
 氷の影響が強い北の森から戻り、いつもの森にある広場で休息を取ることにした。このままでは戦闘もろくに出来ない。広場には誰もおらず、危険そうな奴らも居なかった。やっと落ち着ける……と安堵して腰を下ろすと、林から緑色の巨体が現れた。オーガだ。間違いなく僕に向かってきている。僕は回復もそこそこに慌てて立ち上がった。ヒューイやルーパスも休む暇がない。そのオーガを倒して一息入れようとした時、またしても背後からオーガが現れた。オーガが出るのは有り難いことだけど、こう立て続けでは、魔力が回復するのを待っていられない。ただ、オーガを倒すのはいつも犬任せなので、その点では幸運だった。
 とにかく今回の狩りは忙しなかった。さすがにこれを続けるのは、僕もヒューイ達にもしんどい。それでこそ訓練になるのだけど。

 氷の生物達との戦いで、もう少し装備を強化した方がいいと実感した。ギランに立ち寄る機会があったので、広場で防具を強化する巻物を購入する。結構お金が貯まっていたので、思い切って5枚ほど購入した。これで少しは強くなるだろう。本当は強化された手袋が欲しいのだけど、なかなか手に入らないのだ。



 ケントの森での狩りに疲れ、しばし休息を取ることにした。ギランで買い物をするついでに、広場の人混みを眺める。石畳の広い公園がいつにも増して混雑している。行商の呼び込む声。談笑する人々の声。一度気になり始めると煩いほどだ。
 何をみるともなく告知を眺めていた。見ている間にも入れ替わり立ち替わり、様々な売買の告知が表示されれは消えていく。その中に、魔法書を売るという文字があった。サモンモンスターという、モンスターを自分の使い魔として召還する魔法だ。以前から欲しいと思っていたが、なかなかタイミングが合わずに購入を見送ってきた。これもいい機会だ。せっかくなので今買ってしまおう。高い物じゃないのだから。
 取引のためにグルーディオに飛ぶ。倉庫屋の前で待ち合わせ、男エルフから魔法書を手に入れた。魔法を使えるようになるためには、これをテンプルに持っていかなければならない。すぐにいつものテンプルに飛ぼうと思って気づいた。そうか、これはカオティックの魔法だ。いつもはロウフルのテンプルに行っているが、そこで使えば蒸発して消えてしまう。危ないところだった。
 行き先をカオティックテンプルに指定し、テレポートでジャンプ。荒れ地の真ん中に、生々しい巨大な動物の骨がある。中央で赤い大きな宝石が光っている。これがカオティックテンプルだ。魔法書を掲げると光が宿った。魔法書は光の柱となって消え、僕の体の奥には混沌とした力が湧き出した。腹の中で虫のように蠢き、それが落ち着くと同時に光も消えた。僕の中に魔法が宿ったのだ。
 グルーディオに戻った僕は、ワクワクしながら覚えたてのサモンモンスターを使ってみた。ところが、魔法は何の反応も示さない。おかしいな、確かに覚えたはずなのに。何かわだかまりでもあるような気分だ。もう一度試してみる。何かが足りないようだ。調べてみると、一度のサモンモンスターには魔力の石が3つ必要なのだそうだ。知らなかった。でも、今まで手に入れた魔力の石は売り払わずに取っておいたので、僕はたくさん持っている。偶然とは言えラッキーだった。

 普段は犬を連れ歩いているので、サモンモンスターは必要ない。でも洞窟の奥ど、犬を連れていけない場所に行くときには、現地に行ってから呼び出せるサモンモンスターが役に立つ。これで今まで避けていた洞窟探検も出来るようになった。

 まだまだ世界は広く、僕の行っていない場所がたくさんある。これからも、こうして少しずつ行ける場所を増やしていこう。


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