リネージュ日記
<ウッドベック村とリザードマン・ヴァラカス消失事件・クランへの導き>



 ウッドベック村へ。ウィンダウッド城の近くでリザードマンを狩る。歩いているうちに城の門まで来た。衛兵だけでなく見張りがいて、「ご迷惑をおかけします」という告知があった。今日は攻城戦が行われるのだという。城の周りは閑散としていたが、嵐の前の静けさという奴だろうか。数時間後にはここが戦場になるなんて驚きだ。
 リザードマンは意外と動きが早い。ここでの戦いはヘイストのかかるポーションが必須かもしれない。緑色の液体飲み薬は、通称「グリーンポーション」や「GP」と呼ばれている。

 城の周りでリザードマンを狩りながら、たまにハーピー退治にも挑戦する。ハーピーは肉以外にも、レッドポーションを見せても空から降りてくる。どうやら食欲旺盛なようだ。しかし卵には目もくれない。よもや”がめつい”だけなのだろうか。
 気を付けていれば何てことない狩りだな、と思っていると、不意に体が痺れた。ハーピーの毒だ。慌てて帰還スクロールで村に戻った。直後に体は完全にマヒ。痺れが取れるまで時間が掛かった。危なかった。もしスクロールが間に合わなければ、僕は今頃ハーピーの餌になっていたところだ。
 ウッドベック村は、夜だというのに非常に賑やかだった。やはり戦争の影響だろうか。それとも皆、狩りに来ているのか。噂によると、戦争が終わった直後に、戦場の遺品を漁る人々も出るのだとか。何だか嫌な話だ。

 体の回復を待って、再び狩りへ。気を付けながら頑張ろう。
 もう一度ウィンダウッド城の前を通った。腰を下ろして休息を取りながら門の辺りを見ていると、近衛兵の数が増えていた。その中に腕組みをして立っている人がいる。遠目だったので最初は気づかなかったが、頭には王冠が。なんと7thNightmare血盟のTrident城主だった。ビックリしてマジマジと見ていると、近衛兵の一人がこちらを訝しげに睨んだ。これから戦争が始まろうと言う時に、門の前でじろじろ様子を伺っていたら怪しまれても仕方ない。支度を済ませ、すぐに狩りに戻った。

 攻城戦が始まったと聞いて、ウィンダウッド城へ行ってみた。不謹慎だが、一度戦争を見物してみたかったのだ。遠巻きに城を眺めたが、どうも戦をやっている雰囲気がない。門の前まで行ったが、城主は腕組みをしながら待っているだけだった。どうやら今回は、ウィンダウッド城へ攻めようという血盟は居なかったようだ。

 各地をウロウロしていたら、ギランの広場でヘイストの魔法書を売っているのを見つけた。早速購入。



 ウィンダウッド城の南東、海岸沿いの砂漠の辺りで狩りを続ける。リザードマンは攻撃的で、近くにいるだけで襲ってくる。おまけに数がどんどん増えることがある。だが弱点も分かった。炎だ。リザードマンが大挙して追いかけてきた時には、ファイアーボールが非常に役に立つ。MPの減りは早いが、離れては撃ち、離れては撃ちと3回ほど続ければ、ほとんど倒すことが出来る。残った奴は犬か軽い魔法でやっつければいい。
 いつ襲ってくるか分からない緊張感のおかげで、良い訓練になっている。それにリザードマンは人間ばかり敵視しているようで、犬には無頓着だ。おかげで犬の心配をしなくていい。ヒューイがいつも出られる訳ではないことは考えて、もう一頭ドーベルマンを手に入れて育てることにした。やはり戦闘にはドーベルマンが良い。すぐに戦力として使えるようになった。
 狩りの効率も上がり、稼げるようにもなってきた。話せる島程の荒稼ぎは出来ないが、お金が入るのは嬉しい。しばらくはウッドベックを拠点として、訓練と金稼ぎをしよう。


 砂漠を渡ってシルバーナイトタウンへ。途中、狩りに夢中になって迷子になり、遙か北まで通り過ぎてしまう。戻ってSKTへ。しばし休息。……と思ったところで、広場の端で騒動が。喧嘩か何かかと思ったら、なんとプリンセスを追ってきたブラックナイト8人組が町の中に乱入。戦闘が始まり、大騒ぎとなる。微力ながらヒールの魔法で手助け。程なくブラックナイトは撃退された。こんな所まで入ってくるとは、おちおち休息も取れない。ブラックナイトは君主を追いかけてくるのだそうだ。君主の人達は大変だ。それにしても、この騒ぎを見ながらまったく動じない人達も大勢いた。ここSKTではよくある事なのだろうか。
 と言っているそばから、またしてもブラックナイトが乱入。おまけにホブゴブリンやらノールやらオークやらが大量発生。広場がモンスターで埋め尽くされる。側にいたナイトやエルフ総出で退治することに。本当に怖いところだ、ここは。その後も2度ほど乱入があった。この異常発生もヴァラカス復活の影響なのだろうか。


 やられた。ハーピーに掴まって犬がやられたのが2回。リザードマンの大軍とハーピーに掴まってあっという間にやられたのが1回。注意していたつもりだったのに。
 そこで、今度は注意しようと心に刻み込んで挑んだ。またしても大軍に囲まれるが、そこはテレポートで逃げた。と、最初に目に入ったのは、森の木々でもなく、砂漠の荒涼とした大地ではなく、村の建物でもなく、白い雲だった。僕の体は動かなくなった。石化した僕の前を、悠然とバジリスクが通り過ぎる。最悪なことに、僕はバジリスクの目の前に飛び出してしまったのだ。このままバジリスクに食われるのか……。すでに動けない僕には為す術もない。
 だがバジリスクは、あまりに弱い僕に情けをかけたのか、そのまま悠然と歩き去った。命拾いした僕は、体の自由が効くようになると、すぐに村に戻った。

 しばらく訓練をしたあと、夜になったので話せる島へ戻った。夜の砂漠で狩りをするのは無謀極まりない。前もそれでやられそうになった。そこで、夜は話せる島でお金を稼ぐことにした。こっちは慣れているから、それなりには安全だ。リザードマンの攻撃に比べれば、グールやホブゴブリンなんて今や楽なもんだ。ちゃんと村でアーススキンもかけてもらったし、さぁ、稼ぐぞ。


 復活スクロールをまとめて100枚売りたいと宣伝している人がいたので、早速連絡を取る。行商ではない、個人売買は初めてで連絡に手間取ったので、その間に売れてしまったかと思ったが、無事取引へ。ちょうど取引が緩やかになっている時だったようだ。100枚で57000アデナ。いきなりの出費だが、今まで50枚は使っているんだし、これからも使うことがあるに違いない。



 ウィンダウッド城の近くで狩りをしている最中、オアシスまで足を運んだ。アイテムを補充するためだ。いつもなら一度村に帰るのだが、この時は狩りが快調だったので、そのまま狩りを続けることに。
 が、オアシスに着いた途端、目の前に真っ赤に燃える巨大な獣が現れた。いや、正確には誰かが追いかけられているのだ。ホーンケルベロスだ。驚いている間に、その人とホーンケルベロスは行ってしまった。なぜこんな所にあんな化け物が。
 オアシスで補給を済ませた後、砂漠を歩き出した。すると、見たことのない化け物が。更に敵の数が多い。スコーピオンももの凄い勢いで追いかけてくる。まさかヴァラカスの影響か? そう言えば、つい少し前に、テレポートで飛んでいった荒れ地に、不思議な炎が何個も浮いていた。炎に包まれた卵だった。それが何個も浮いているのだ。前にはあんなものは無かったはずだ。
 結局、狩りを続けることは出来ず、村に戻った。

 あの卵はなんだったんだろう。オアシスでは、あの卵を割るとイイモノが手に入るという噂が流れていた。卵の正体を確かめるために、荒れ地に行ってみた。しかしあの炎を纏った卵を見つけるどころか、これまた異常に発生しているスパルトイに追いかけられ、探索もままならぬまま、逃げ帰ることになった。

 が、ここで諦めたくはない。準備を万端に整え、再び挑戦。日暮れが近いので、日暮れまでの数時間をメドに、その間だけアイテムも魔法もつぎ込んで探索を行うことにする。犬にもヘイストをかける念の入れようだ。向かうのはグルーディオの東にあるBK荒れ地。ブラックナイトの出るあの場所だ。
 スケルトンやグールなどを何匹も倒して。準備も整っているし、僕も強くなっているから、彼等を相手にしても怖くない。しかし肝心のものが見つからない。魔法も尽きてきて、日暮れも近くなった。そろそろ帰ろうかとグルーディオに向かった時、あの炎の卵が2つ浮いているのを発見した。やった! と思ったのも束の間、側にいた別の人が、あっさりと2つとも取ってしまった。残念。

 目的のものは手に入らなかったけど、この高揚感は楽しかった。荒れ地には他にも大勢冒険者がいたので、みな、あの卵が目的だったのかもしれない。
 こうなると、最初に見たあの卵。10個以上も並んでいたのに、怖くて手を出さなかったのが悔やまれる。



 狩り場に人が大勢いて狩りにならないので、狩りは諦めて買付をすることに。先日のオークションが開かれていると聞いたので、さっそく参加。今回はオーレン、つまりは象牙の塔の村にて開催。狙いは祝福されたテレポートスクロール。通称b-tele。
 今回のオークションの目玉はなんと言っても、競り落とした武器をその場で強化(エンチャント)。本来以上の性能を引き出すオーバーエンチャントに成功したもの。50万近い価格がついた。
 しばらく待ったが、b-teleは出てこなかった。昼になったので、リザードマンを狩りへ戻った。ところが狩りをしている間に、一般の取引場(オークションではなく個人売買)でb-teleが安値で取り引きされていたりして、間が悪いことこの上無かった。

 狩りは成果あり。だがここのリザードマンでも訓練にはならなくなってきた。やるとすれば、現在引き連れている2匹の犬を1匹にして、より厳しい状況で狩りに望むぐらいだ。しかしそれは危険な気がする。どうしたものか。


 15匹程のリザードマンに追いかけられる。しかもこの時の装備が弓だったので防御力が弱かった。掴まったらやられることは間違いない。走り回りながら盾にチェンジ。ファイアーボールで反撃する。このやり方にも慣れてきた。
 だがリザードマンには続々と援軍が駆けつけた。あまりに数が多い。ありったけの魔法をつぎ込み、あっという間にMPが消費されていく。元々MPは半分しか残っていなかった。これはヤバイと思ったところに、近くにいたウィザードが加勢してくれた。リザードマン数匹が分かれた。が、その人はあっさりやられてしまう! さらにはエルフが助けてくれるが、彼も囲まれて逃げ出す始末。敵を失ったリザードマンは再び戻ってきて、僕を追いかけ始めた。必死に距離を取りながらファイアーボールで応戦。アイテムもつぎ込む。とうとうMPは尽きてしまったが、必死の抵抗でリザードマンの数は減った。急いで弓にチェンジし、遠距離から攻撃。ようやく全てのリザードマンを倒した。連れていた犬はヒューイとルーパスだった。一緒にいたのがこの2匹じゃなかったら、僕が死んでいたかもしれない。
 魔法は尽き、アイテムも激減。補給のためにオアシスへ向かおうとした矢先、再びリザードマン数匹が襲ってきた。それを辛うじて退け、保険のためにヒューイとルーパスにヘイストをかけて出発。オアシスへと辿り着いた。

 オアシスで泉の冷たさを楽しみながら休憩していると、ちょっと寝入ってしまったようだ。あまりの暑さに飛び起きる。暑さというよりも、熱い。灼熱だ。目の前にいたのは、真っ赤に燃えた人。これはバーニングウォーリーアー! と思ったのも束の間、あっさりやられてしまい、大やけどを負った。ヴァラカスの復活以降、オアシスも安全では無くなってしまった。むしろ危険かもしれない。



 久しぶりにElwing氏と会う。ウィザード用の服を売って貰う。どうもお金に困っていると思われたらしく、最初は気を遣ってもらって、無料だと言われた。でも僕もここの所お金を貯めていたのだ。というのも、ずっと使っている骨鎧よりも良い防具を揃えようと思っていたのだ。それには、ウィザード用の服を手に入れ、強化する必要がある。それにはお金がかかる。つまり、この話は僕には渡りに船だった訳で。Elwing氏は気が利く人だ。

 その後、五代雄介氏と狩りに出かける。目的地は、いつも僕が狩りをしているウィンダウッド城近辺。リザードマン狩りだ。
 が、人と一緒に回るのに慣れてないせいか、たびたび迷惑を掛けることに。最後はリザードマンに囲まれて死にそうになり、慌てて自分だけ村に飛び帰ってしまった。その後、残された五代氏はどうしたか。なんと刈り損なったリザードマンを引き連れて僕の所まで来てくれて、無事、リザードマンを狩ることができた。

 五代氏が急用ということで離れ、僕はそのまま狩りに。そのうち日が暮れてしまった。帰っても良かったが、せっかくなので少し狩りを続けることに。
 オアシスで薬を補給したあと、アイテムを売りにSKTまで行こうとした所で、ジャイアントアントやスコーピオンの大軍に襲われた。補給後で準備は万端。せっかくなので倒してやろうと息巻いたのが失敗だった。ファイアーボールを乱発したが、敵は硬い。おまけに数は増える一方。ついに掴まってしまった。ポーションを使ったが、とても間に合わない。回復する量より、削られる量の方が多いのだ。慌てて帰還スクロールを使う。間一髪のところで間に合い、村に辿り着いた。危なかった。

 再び夜の砂漠を渡り、SKTへ向かう。が、途中、やはりジャイアントアントやスコーピオンの大軍に襲われる。が、僕も少しは慣れてきた。冷静に対処して1度は撃退。しかしSKTのすぐ近くでまたしても襲われ、結局飛んで逃げるハメに。結果的には、それでSKTに到着した。

 SKTはいつにも増して賑やかで、広場の倉庫前などは特に混雑していた。行き来するだけで一苦労だ。あちこちから威勢のいい取引の言葉が飛び交っている。溜まっていたラージシールドの売却を済ませ、ポーション関係の補充。しばらく休息を取りながら広場の喧噪を眺めることにした。

 そこへb-tele売りますという告知が。すかさず連絡を取り100枚をゲット。55,000アデナの出費。おかげで所持金は10万を切ってしまった。またお金を稼がないと。これからは装備にお金が掛かるんだから。
 これで不自由なく様々な場所に行き来が出来るようになった。ただ使いすぎには注意しないとね。


 いつものようにウィンダウッドの近くで狩り。そして良くあるように、リザードマンに追いかけられる。隣でも同じように追いかけられているエルフがいた。二人で示し合わせて合流させ、僕はファイアーボールを、エルフは弓を撃ちまくった。おかげで全てのリザードマンを撃退することに成功。僕は魔法が尽きるし、向こうは矢が尽きてしまった。



 予定されていたヴァラカス討伐隊だったが、思うように志願者が現れず、見送られることになった。歴戦の者達が後込みするほどヴァラカスは強いのだろう。次に期待するしかない。
 噂によれば、かつてヴァラカスが倒されたときには、数百人の討伐隊が組まれたという。その誰もが高レベルの冒険者だった。討伐隊は幾度もヴァラカスのいる火口へ向かい、とうとうヴァラカスを封印したのだ。だが復活したヴァラカスは、以前より強大になった。果たして再びヴァラカスを倒せるのだろうか。僕はただ、討伐隊の活躍に期待するしかない。


 訓練に励む毎日。日中はウィンダウッド城の近くでリザードマンを相手に戦う。魔法が尽きたり、夜になると、話せる島に渡り、グールやホブゴブリンを相手に弓で戦う。こうすると効率がいい。弓で戦う間に魔法が幾らか回復するので、朝になったらまたリザードマンを狩りに行ける。

 リザードマンと戦っていると、隣から助けを呼ぶ声が。急いで目の前の敵を片づけて駆けつけると、女エルフが多量のリザードマンに追いかけられていた。すかさずファイアーボールを連発。リザードマンの多くを蹴散らした。が、一団となっていたリザードマンが散開してしまい、右も左もリザードマン状態になってしまう。近くのナイトも駆けつけ、辺りは大混戦になった。ようやく全てのリザードマンを退治したときには、すっかり魔法も尽きていた。
 青いポーションを初めて使ってみた。1個だけ試しに携帯していたのだ。青い薬を飲み干すと、いつもより数段早く魔力が回復していった。これは使える。なにせ砂漠の真ん中で魔法が尽きても、これを飲めば戦い続けられるのだ。今度から危なくなったらすぐに使うことにしよう。

 リザードマン狩りでサファイアが200個も貯まっていた。売り払うと10万アデナになった。思わぬ収入だ。
 貯まったお金で、防具を強化することにする。そうすればもっと戦えるようになる。ウィザード専用の服は、魔法を使うには役に立つが、薄っぺらなので攻撃されるとかなり痛いんだ。しっかり魔力で強化してやらないと。

 結局、これまで貯めていたお金をほとんどつぎ込んで、防具の強化を行った。やっと安心して戦えるレベルまで到達。けど、お金はすっからかん。何十万アデナが消えてしまった。残ったのはたったの5000アデナ。我ながら思いきったものだ。これからまた稼がないと。


 近頃は専ら狩りばかりだ。久しぶりに休息を取って、ギランへ行った。アルティメットバトルの開催状況を確認しに行くと、ちょうど始まったばかりだという。慌てて会場に飛び込む。これまで何度か見てきたが、見たことがないモンスターが登場している。以前聞いた話によれば、出現するモンスターにはパターンが2つあるという。一つは僕が今まで見てきた、最後にジャイアントアントクイーンが出るもの。そしてもう一つ、僕がまだ見ていなかったパターンで登場する最終敵は、あのヴァラカスだ。思わず胸が躍った。模擬戦とは言え、ヴァラカスとの戦いをこの目で見られるなんて!
 最後まで残ったのは17人。最終戦の始まりを示す司会の合図と共に、空から隕石が降り注いだ。メテオだ! 広い闘技場の一角に、燃え盛るように赤い巨体が出現する。ヴァラカスだ。
 会場が地鳴りでグラグラと揺れた。ヴァラカスの咆吼で観客席の屋根まで吹き飛びそうだ。17人がヴァラカスに飛び掛かった。直後、ヴァラカスの周りに火柱が立った。選手達の姿が見えない。僕は熱さに顔を覆いながらも目を凝らした。炎の向こうに、必死に戦う選手達の姿を辛うじて見ることが出来た。彼等はヴァラカスを取り囲み、一斉に剣を振るっていたヴァラカスもその巨体を躍動させ、群がる人間に襲いかかる。数分間、その攻防が続いた。これだけの攻撃を食らえば、さしものヴァラカスも倒れるだろう。なにせ闘技場のヴァラカスは言ってみれば偽物だ。本物よりは弱い。あのヴァラカスが倒されるのをこの目で見られるかもしれない。僕はワクワクして、今か今かと待った。だがヴァラカスは倒れない。「あと30秒です」司会の声が響く。選手達は剣を振るい、ヴァラカスはまるで傷一つ負っていないかのように暴れている。ダメなのか……落胆しつつも、僕は最後の30秒に期待した。まだまだ。諦めるな。きっと倒せる。
 だがその時異変が起きた。ヴァラカスが消え失せたのだ。倒された訳ではないようだ。闘技場が静まり返った。選手達も呆然と言ったところだ。
 どうやらシステムの故障があったようだ。実は闘技場での試合は模擬戦なのだ。ヴァラカスも本物ではなく、魔法を使って具現化した架空のものだ。その魔法に不具合があったようなのだ。試合の続行は不可能ということで、そのまま中止となった。闘技場の前では、選手の何人かが残念そうに会話をしていた。僕も残念で仕方ない。でも、また来よう。今度こそ最後まで。


 やった、初めてオーガを倒した! 連れていったヒューイとルーパスがよく頑張ってくれた。やってみれば案外オーガも怖くない。僕もそれだけ強くなってるに違いない。もっとも、ヒューイとルーパスが強くなっていることの方が効いていそうではある。なにせ僕は遠くから魔法を撃っていただけで、実際に戦っていたのはヒューイとルーパスなのだから。



 ”猛者通信”という名のエルフに話しかけられる。向こうは僕のことを知っているようだ。エルフと言えば……ピンと来た。やはり彼もまたElwing氏の知人だった。”閃光の射手”という格好いい通り名がついている。僕にもそんな通り名が付くときが来るのだろうか。
 不要だという魔法書を譲って貰った。これでまた魔法が増える。一歩ずつ。今は着実に階段を上るべき時だ。

 猛者通信氏とゴロウの話をしたら、何だかしんみりしてしまった。ウッドベックを拠点にするようになって随分経つ。ゴロウはずっと預けたままだ。寂しがってはいないだろうか。また一緒に戦いたいと思っていないだろうか。それとも安全な暮らしを楽しんでいるのだろうか。たぶん寂しがっているのは僕だ。ヒューイもルーパスも立派だし、冒険には必要不可欠な存在だけど、ゴロウがいないのは残念で仕方ない。いっそゴロウを今の狩り場に連れて来ようか。でもゴロウはあっという間にやられてしまうかもしれない……。


 ウィンダウッド城の近くで狩り。最近は城の南東ではなく、北東へ通うようになった。SKTの近くだ。こちらの方が狩りがしやすいし、SKTにも近いので便利なことも多い。SKTではスキン屋もよく見かけるし、集めたアイテムを売りやすいのだ。ところがSKTにも欠点はある。犬を預かってくれる所がないのだ。一旦犬を預けてから町を歩いたり、戦利品の売買をすることも多いので、この点では不便で仕方ない。ゆっくり休息を取りたいときにはウッドベック村に行くようにしている。

 いつものように狩りをしていると、リザードマンに取り囲まれているウィザードを発見。慌てて助けようとヒールの準備をした。瞬間、ウィザードの周りに竜巻が巻き起こり、リザードマンは呆気なく全滅してしまった。トルネードの魔法だ。凄い威力だった。僕もあんな魔法が使えるようになりたい。


 サトラレ君と一緒に狩りに出かける。こうして誰かとパーティーを組んで本格的な狩りに出かけるのは初めてだ。夜明け前のウッドベック村で待ち合わせて出発。
 パーティーでの狩りは非常に効率がいい。アイテムの消費も少ないし、敵を多く倒せるので良い訓練にもなる。稼ぎはまぁまぁ。分配することになるので、結果的には収入はそれ程多くはないけど、何より安全に、効率よく狩りが出来るのは魅力だ。狩りをしている間に夜が明けた。一人で夜明けを見たことは多いけど、二人で見るのは初めてだ。なかなか感慨深い。
 パーティーでの役割は、僕がまず敵を引き付ける。そしてサトラレ君が援護射撃をする。本格的な狩りは、二人が連れてきた犬に任せるという形だ。この形だと、僕は最初に一撃魔法を放って、あとは逃げていればいい。危険を冒す必要もないし、合計5匹の犬があっというまに獲物を退治してくれる。
 ただ、僕がしっかり敵を引き付けないと、パーティー全体が危険に晒されてしまう。そのせいで何度か危ない状況になった。最後は、たくさんのゴーレムを退治している最中に、周りをリザードマンに囲まれるという大ピンチに。犬はゴーレムと戦うので精一杯で、リザードマンが無防備な僕やサトラレ君を取り囲む。近くを通りかかったナイトが助けてくれるが、その彼もリザードマンに取り囲まれ、しかもハーピーにやられそうになってしまった。結局、全員が村に逃げ帰ることに。逃げ回っていた僕はさほど怪我はしなかったのだけど、サトラレ君はボロボロだった。
 村で休息を取った後、戦利品を分配。最後は酷い目にあったけど、狩りは楽しかった。また誰かと一緒にやってみたい。サトラレ君と、また一緒にやろうと言って別れた。

 その後、僕は再び狩りを続けた。いつの間にか夜が来た。今日は一日中狩りをしていたということか。
 夜になってウッドベック村に戻ると、ヒューイが面白いものをくわえていた。「生命の秘密」という、ゴーレムが希に持っている巻物のような代物だ。これは僕にはまったく意味を成さないが、君主の人達には重要なものだ。だがこの巻物は、初めて触れた”人”にだけ意味を持つ。誰かが一度持つと、その人以外には用を成さなくなってしまうのだ。つまり僕が手に持ってしまえば、他の人にあげてももはや意味がない。今回はヒューイが持っていたのが幸運だった。せっかく手に入ったので、必要な人にあげることにしよう。
 五代雄介氏に頼んで、告知を出して貰った。するとすぐに返事が来た。ヒューイに持たせたまま、待ち合わせのケントへ。掲示版前で”穂”という名のプリンセスと会った。空き小屋に場所を移動して、ヒューイの持っている「生命の秘密」を彼女に渡すことに。これで僕も少しは人の役に立てる。
 ところが、ここで僕は大失態を犯してしまう。小屋の中に一頭の鶏がいることに気づかなかった。この辺りの鶏は好奇心も食欲も旺盛で、その辺にあるものを何でも食べてしまうのだ。それが小屋の中にいた。僕がヒューイに命じて巻物を床に置かせると、その鶏がすっ飛んできて、あっという間に飲み込んでしまったのだ。呆然とする僕ら二人の前で、その鶏は満足そうに一声鳴くと、卵を産んだ。食べたものの代わりにこれをあげるわ、なんて言いたそうだ。僕はただただ驚くしかなかった。期待してやって来たプリンセスには申し訳ないことをしたな。

 実はこのあと、プリンセスからクランに誘われた。僕にはその気はなく、まだまだ世界を回ってみたいと思っている。僕はそれなりに強くなったけど、まだ行けない場所も多い。自分の目で確かめたいことがたくさんある。僕はもう少し一人で旅をしたい。
 ”穂”という名のプリンセスは、僕の考えを理解してくれた。それは分かります。無理には誘いません。頷いたあと、彼女は僕のウィザードとしての力を見定め、静かに言った。「もう、そんな風には言っていられないのではないですか?」。僕はやんわりと窘められた。この世界での冒険者は、やはりクランに属するのが基本だ。いつまでも一人だけではいられない。自分が何をしたいのか。何を目指したいのか。それを考え、それに合ったクランを見つける。この大陸には非常に多くのクランがある。大きなもの。小さなもの。数え切れないほどだ。その中から、自分の入るべきクランを見つける。それは、これからの自分の道を探すことにも通じるのだ。
 僕も、そろそろ自分だけのことを考えてはいられないのかもしれない。でも、僕はまだ、自分が何を目指したいのか、まったく分からないんだ。魔法使いになることを目指して村を出て、何日が経ったろう。僕は望んだ力を手に入れつつあるが、大事な事は何一つ掴めていない。


 その後、意地になって「生命の秘密」を手に入れるために、徹夜でゴーレムを倒し続けたのだけど、結局、「生命の秘密」は手に入らなかった。

 戦いに疲れたので、犬をウッドベックで預け、単身ギランへ。息抜きがてらに町をぶらぶらと歩くが、ふと、そろそろアルティメットバトルの時間じゃないかと思い立つ。闘技場に行ってみると、まさしく参加手続きを求める選手達で賑わっている所だった。早速僕も観客席に入った。
 残念ながら、今回はランキング上位の選手は参加していないようだ。このメンバーでどの程度戦えるのか楽しみだ。そして今回のボスは何か。わくわくしながら試合開始を待った。
 開始と同時に最初のモンスターが出現。そして喚声が沸く。僕の高揚も一気に高まった。登場したのはスノーマン。ということは最終戦はヴァラカスだ!
 試合が進むにつれて人間側が不利になっていく。第三グループが始まろうという時に、まだ第二グループの敵が残っているのだ。それも結構な数だ。しかし最終戦開始直前には全てのモンスターが退治された。あとはボスの出現を待つのみ。遂にヴァラカスが出て来るぞ……と注目した所に登場したのは、デーモンだった。そしてデーモンはあっさりと退治されてしまう。何だか肩すかしをくらった気分だった。そうか、モンスターの出現パターンは2つじゃなかったのか。

 ギランで少し買い物でもしようかと思ったのだけど、なぜか広場で行商をしている人がいなかった。人はそれなりにいるのに。そういう日もあるのか。



最新の日記へ
続きへ