リネージュ日記
<3つめの試練・アジト競売の日・パワーグローブ・火山・パイン大会>


 新しい試練を受けることにした。今度の試練は、前回の試練をクリアしていないと受けられない。噂によれば前回よりは簡単なものだそうだ。

 僕はまず象牙の塔に向かった。3Fにタラスという人物がいる。白い髭を豊にたくわえた象牙の塔の長だ。僕は彼からの指令を受け、鏡の森に向かった。
 鏡の森はドッペルゲンガーが出る森だ。僕と同じ姿をした奴らがウロウロしている。彼らの変身はあまりに精巧で、僕自身でも見分けがつかないと思うほどだ。

 その森の奥に、神秘の岩というものがある。人の言葉を理解し、話せる岩だ。岩そのものも人の顔に見える。確かに不思議な岩だ。
 僕は岩に話しかけた。岩はゴリゴリと口を動かした。魔法書キャンセレーションとドッペルゲンガーの体液が欲しいという。彼は人語を話せるが岩には違いない。ここから動くことができないのだ。力を貸して欲しいと彼は言った。

 魔法書キャンセレーションは持っている。あとはドッペルゲンガーの体液だけだ。
 ドッペルゲンガーの体液は、ドッペルゲンガーにエヴァの祝福を飲ませてから倒すと手に入るらしい。僕はさっそく森の中を走り回った。

 辺りは人だらけだった。ドッペルゲンガーではない。僕と同じ目的でやってきた本物の人間だ。おかげでドッペルゲンガーになかなか会えない。やっと会えても、なぜかドッペルゲンガーの体液は手に入らない。ちゃんとエヴァの祝福を飲ませている。何か手順でも間違ってるんだろうか。

 しばらく狩っていると、森の中に奇妙な行列が出来ていることに気づいた。普段は見ないものだ。不思議に思って聞いてみると、これは試練待ちの行列なのだという。

 実はドッペルゲンガーの体液は、どのドッペルゲンガーからも手に入る訳ではなかった。ある場所にいる特定のドッペルゲンガーだけから手に入るのだ。この行列は、そのドッペルゲンガーを倒す順番待ちをしているのだという。

 僕は最後尾に並んで順番を待った。
 それにしても面白いシステムだ。そう思いつつ、僕は同時に首もかしげた。周りでは、それと知らずに走り回っている人がたくさんいる。どんな人でもここに並べば、いつかは順番が来る。逆に、どんなに苦労して走り回っても、ここに並ばない限り手に入らない。これは果たして試練なのだろうか。

 やがて僕の順番がやってきた。「そこに立っててください」と案内役の人が教えてくれた。しばらくすると、向こうからドッペルゲンガーがやって来た。見た目は他のドッペルゲンガーと変わらない。
 戦い始めると違いが分かった。明らかに他のドッペルゲンガーよりも強い。僕は焦った。気を抜くとあっという間にやられてしまいそうだ。
 すると、行列待ちをしている人達から回復魔法が飛んできた。ドッペルゲンガーに殴られるたびに一瞬痛みが走るが、傷はすぐに消えてしまう。それぐらい強力なサポートだ。これも行列の恩恵というヤツだろうか。
 そんな事を考えていたら、回復魔法が一瞬止んでしまい、やられそうになった。油断は禁物。気を引き締めて戦いを続けた。
 ドッペルゲンガーは倒れ、僕はようやくその体液を採取することができた。

 僕は体液を手に入れたあと、しばらくそこに留まった。試練が終わった人は、次の人のサポートをすることになっているらしい。僕のサポートをしてくれたのも、直前に試練を終えた人だった。なるほど、こうして行列がうまく回っているんだと思った。

 その後、僕は神秘の岩を再び訪れ、彼の欲しがっていた品物を渡した。神秘の岩は見返りとして、古代の悪魔に関する文書をくれた。僕には興味ない品物だが、象牙の塔のタラス氏はこれを欲しているらしい。さっそくこれを象牙の塔まで持っていこう。

 僕がきびすを返すと、後ろからかみ殺した笑みが聞こえた。不思議に思って振り返ると、神秘の岩が、顔を形作る岩をボロボロと崩しながら勝ち誇ったように笑った。「こんな嘘で騙されるなど馬鹿な人間どもめ!」。
 僕は彼に利用されていた。けれど僕は不快感を感じなかった。彼らに利用されていると推測はできた。理由は簡単だ。僕たちも彼らを利用しているのだから。

 象牙の塔に行くと、タラス氏は文書と引き替えに一抱えの袋をくれた。これで試練をクリアしたことになるようだ。僕はいそいそと中を確認した。青色のマントが入っていた。これこそ僕の欲しかったものだ。
 マナマントは、その特殊な生地で辺りからマナを集めてくれる。魔法を使用することで失われていくマナが早く回復するのだ。魔法使いにとっては嬉しい一品だ。身につけてみると意外と肌触りもいい。長く身につけていても良さそうだ。これからはこのマントを使おう。



 アデンの大規模アジト競売――その締め切りが迫った。
 僕はアジト貯金に追加した。これが最後だ。僕の精一杯。ここしばらくで稼いだ分は全てつぎ込んだ。そのお金を預かった君主のMao氏は目を丸くした。予想外の高額だったせいだろう。僕はMao氏を前に、「どうです、凄いでしょう!」と胸を張った。

 でも僕は内心不安だった。アジト貯金は目標の1500万には届かなかった。集まったのは1200万と少し。ぎりぎり最低目標だった。まだ夢は持てるし、とりあえず君主に恥をかかせないで済む。僕はそう思って自分を納得させた。

 競売締め切りの日。Mao氏は集めたお金を抱え、任せてとばかりに笑顔で競売場に向かった。しっかりとした足取りだった。Mao氏の小さな背中がとても頼もしく見えた。

 待つことしばらく。Mao氏からは逐次、状況報告が入った。アジトの競売場は大混雑らしい。まさに足の踏み場もないほど。多くの人がこのアジト競売に賭けていた。

 制限時間ギリギリ。価格が一気に動き出す。会場からざわめきが消えていく。皆真剣な目だ。そして競売終了の時間がやってきた。
 歓声と共に盛大な花火が上がった。方々で労う声。まるでお祭りだ。あまりの大騒ぎに、競売の結果がどうなったのかしばらく分からなかった。僕はとりあえずMao氏の帰りを待つことにした。

 やがてMao氏が帰ってきた。その顔を見れば結果は明らかだった。Mao氏は顔をしかめ、「お金は足りてたのに」と悔しがった。僕らのアジトは手に入らなかった。
 落札価格は1200万と少し。僕らの集めた資金は、本当にぎりぎりで足りていた。

 アジトの競売は期限切れ寸前が勝負になる。運とタイミングが勝負と言い換えてもいい。Mao氏はかなり際どいタイミングを狙った。けれど、最後のほんのちょっとで競り負けた。
 資金が足りていたことが、また無念さをかき立てた。でも僕はひとつの達成感を感じていた。少なくとも夢を見られるぐらいの金額を君主に預けることができたのだ。

 一斉に売り出された64戸のアジト。そのひとつひとつをみんなと見て回ったときは、本当に楽しかった。狙っていたアジトもいい場所だった。もしMao氏がアジト貯金を始めると言い出さなければ、そしてもしお金が集まっていなかったら、そんな楽しい夢も見ることができなかった。
 悔しがるMao氏に、僕は「お疲れさまです」と笑って言うことができた。きっとまた次の機会がある。そのときにまた夢を見よう。



 Mao氏から手紙が届いた。先日のアジト競売の件だった。「クラン倉庫を見て下さい」と書いてあった。倉庫に行くと見慣れないグローブが置いてあった。パワーグローブだ。しかも僕が欲しいと思っていたものより高価なものだ。
 アジトが買えなかったので、アジト貯金として納金した一部を使って買ってくれたのだそうだ。あのお金はアジトという目的だけではなく、クランのためにと寄付したつもりだった。思わぬお返しをもらって僕は大いに驚いた。そして有り難く使わせてもらうことにした。

 初めてつけるパワーグローブは、僕が思っていたよりも大きく、そのくせ軽かった。手にしっかりと張り付く感じがした。最初は少々きつく感じたが、その辺のグローブと違ってずれたりしないのはいい。妙な凹凸があるのも気になったが、その効果はすぐにわかった。この凹凸のおかげで杖をしっかりと持つことができた。軽く握っているのに、決して滑ったりしない。なるほど、よく考えて作られているのだ。

 いままで一生懸命振り回していたマナスタッフも、これをつけると手に馴染んだ。軽くなったかと思ったぐらいだ。これならしっかりと力が出せるに違いない。急に力がついたと錯覚するほどだ。実際荷物を持つのが楽になった。僕が思っていた以上の効果だ。
 良い物を手に入れることができた。大切に使おう。



 君主のMao氏に誘われて火山へと向かった。

 僕がよく行くBK荒れ地からも火山は見える。いつも煙を噴いている。火口にはヴァラカスが棲んでいるという。さらには、まだ見たことも無いような強いモンスがたくさんいる。想像するだけで恐ろしい場所だ。

 Mao氏はよく火山の麓で狩りをするという。火山にいるモンス達は強力だが、それだけ珍しいアイテムも手に入る。だから逆に冒険者が多いのだそうだ。危険は危険だが、慣れればどうってことないとMao氏は言う。

 ウェルダン村から狭い橋を渡り、火山の麓へと入った。途端に火山の熱気が伝わってくる。まだ固まっていない溶岩が水蒸気を吹きあげる。煙で視界がぼんやりとしている。
 Mao氏の言ったとおり、たくさんの冒険者とすれ違った。中腹から火口近くはもっと混雑しているという。

 Mao氏はさくさく歩く。モンスを見つけては躊躇無く戦う。どろどろの溶岩でできたラヴァゴーレム、燃えながら襲ってくる戦士のバーニングウォーリアー、炎をまといながら弓を放つバーニングアーチャー。初めて見るモンスばかりだ。おまけに攻撃が予想以上に痛い。僕はおっかなびっくり、必死にMao氏から離れないように走った。

 結局、Mao氏は用があるということで、そんなに長い間はいられなかった。でも僕はほっとした。このまま続けていたら僕の体力が持たない。ハンターボウとツーハンドソードが出て、少しだけ稼ぎになった。



 二度目の火山はひとりで挑戦してみた。
 さすがにひとりでは危険だ。だがヒューイとルーパスは留守番させることにした。きっと僕は自分のことで手一杯になる。彼らが危なくなっても助けられない。やられても平気なサモンモンスターを使うことにした。
 いつでも帰還できるように準備を整える。滞在時間はわずかでも構わない。マナを使えるだけ使って、危なくなったらすぐ帰還しよう。そう自分に言い聞かせて出発した。

 予想通りマナはすぐ切れてしまった。でも少しの時間でハンターボウが5つも出た。これだけで1万アデナ以上の稼ぎになる。驚きだ。火山に人が多いというのも頷ける。
 でも僕にはまだ辛い。こんな狩りをしていたら疲れ切ってしまう。



 パイン大会があると聞いた。
 ここで言う「パイン」とはパインワンドのこと。モンスをランダムに召喚する木製の杖だ。材質がパインなのでパインワンドと言う。パイン大会とは、大勢でこのパインワンドを振ってモンスを呼び出し、それをみんなで退治するというお祭りだ。

 会場は象牙の塔の8Fだという。以前に何度か行ったことがある。でもひとりで行けるだろうか。塔の内部は入り組んでいてわかりづらい。確か7Fを通り抜けるのにずいぶん歩いた覚えがある。
 ナナミィ氏もパイン大会に行ってみたいという。道順や会場の下調べも兼ね、一緒に塔を登ることにした。

 事前に道を調べていたおかげで、案外あっさりと塔の8Fに到着した。モンスに囲まれることもなかったし、道もそれほどは難しくなかった。僕らはそのまま8Fで狩りをすることにした。
 象牙の塔の8Fは歩いているだけでモンスが沸く。下手をすると次々とモンスが出てくる。今回もそうだった。狭い場所でアイアンゴーレムが沸いた。一旦退こうとすると、別のアイアンゴーレムが沸いた。周りが黒い壁のようになった。
 その黒い群から僕は上手く逃れた。だがナナミィ氏を見失ってしまった。やっとの思いで戻るとナナミィ氏がやられていた。

 ナナミィ氏は帰還を躊躇したという。それは僕にも身に覚えがある。誰かと一緒に戦っていると往々にしてあるのだ。自分だけ先に逃れていいのか? 他の人が危険になるのでは? 踏み止まって頑張ればいいのでは? そう考えると帰還をためらってしまう。その判断が難しい。
 だが許容を超える危険に際したときこそ帰還すべき瞬間を逃してはならない。そのためには、冷静に、そして迅速に判断することが必要なのだろう。



 お待ちかねのパイン大会が開かれた。主催は王を討つ者達血盟とBlueSkyAngels血盟。どちらも初めて聞く血盟だ。
 僕らが会場に到着すると、そこはもう人の山だった。大々的な宣伝が功を奏してか大盛況。主催者の予想を上回る人出で、会場はすし詰め状態だった。
 塔の8Fにこれだけの人が集まるなんて誰が予想しただろうか。まさか床が抜けやしないよな、と僕は密かに心配になった。こんな高さから落ちたら無事では済まない。きっと全ての階を巻き込んで1Fまで落ちるだろう。塔の1Fまで吹き抜けになってしまう。塔そのものも崩れるかもしれない。

 用意されたのはパインワンド900ch。つまりモンス900匹分だ。それを何人かが振り、出てきたモンスをみんなで倒す。
 パインが振られ、モンスが登場するや、目の前が真っ白になるぐらいの魔法が飛び交った。狭い塔の中で音が反響して、まるでひどい耳鳴りみたいに頭を揺さぶる。おまけに周りは人だらけ。モンスに攻撃するどころか、周りがろくに見えない状況だった。

 でも初めてのパイン大会は楽しかった。次に開催されることがあったら、また参加してみよう。



 久しぶりにBK荒れ地へ向かった。最初は狩り方を思い出せずに戸惑ってしまった。ツーハンドソードが出た。続けてブロンズプレートメイルも。やっぱりここは稼げる。
 短い時間で止めるつもりだったが、もう少しやってみることにした。なんとツーハンドソードが4つ、ブロンズプレートメイルが2つも出た。いつもはどちらかが2つ出れば良い方だ。重すぎる。でも大事な稼ぎになるから捨てるわけにもいかない。ルーパスとヒューイに持たせてようやく持って帰った。かなりの稼ぎになった。

 夜が明けた。まだ元気があったので、もう少し狩りをすることにした。でもBK荒れ地ではない場所がいい。
 そう言えばと、先日のアジトの件で手伝ってくれたナナミィ氏がDAIを欲しがっていたのを思い出した。SKTC4Fへ行ってみることにした。お目当てはZELとDAIだ。バグベアーやキングバグベアーが出すのだ。
 今日は運が良い。ひょっとしたら何枚も出るかもしれない。そうなればホクホクだ。取らぬモンスの何とやら。僕はニヤけながら出発した。

 SKTC4Fに着くなり洗礼を浴びた。BBにじゃない。ケルベロスだ。BBと戦っているときにコイツが出てきて、真っ赤な口から炎を吐いた。それはBBの足元から上に巻き上がり、僕たちを襲った。危うく死ぬかと思った。
 ルーパスもヒューイもずたぼろだ。彼らはケルベロスの炎をまともに受けた。毛先が焦げてちりちりになっていた。可哀想だ。でもヒールをかけると、ヒューイはケロッとしていた。こういう時は魔法の偉大さが身に染みる。魔法があって良かった。

 しばらく狩りをしてようやく慣れてきた。だが狭い洞窟ということもあり、かなりやりづらい。BBはまだしもKBBの一撃は痛い。それが2匹、3匹と連なってくれば、思わず後込みするほどだ。

 スプリントメイルなどを売り払って、それなりの収入にはなった。だが目当てのZELもDAIも出なかった。残念だ。



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