リネージュ日記
<オーガの森・哀しき人達・オアシスの危機>



 新しい狩り場を求めてケント北西の森へ。ここはオーガが出現する。オーガは非常に希少なアイテムを持っていることがあるので、それを手に入れられれば、一気にお金が稼げるそうだ。が、同じ事を考えている人も多く、しかもオーガは数が少ないので、取り合いになることもあるという。
 オーガは強くて危険だけど、頭が悪いので、とにかく人間しか襲ってこない。だから僕が逃げ回り、犬に戦わせていれば安心なのだ。ただ、時々ジャイアントスパイダーが凄い速度で突っ込んできて、無防備な僕に襲いかかることがある。それさえ注意していれば、オーガとの戦いも平気だ。
 ここでの僕の標的は、もちろんオーガもそうなのだけど、ファイアーエッグというあの火の卵だ。調べてみると、こいつはそう大した敵じゃないらしい。希少なアイテムを持っている訳でもなさそうだ。が、ふわふわ浮いてちょこまかと動くコイツは、自分にとっても、犬にとっても、よい訓練相手になるのだ。
 ファイアーエッグは、普段はこの森にはいない。だけど、ヴァラカス復活の影響でここでも出現するようになった。他に出るのはラヴァゴーレム。こいつはあまり動かない。相手にしない方がいい。ただし、こいつがいるということは、つまりファイアーエッグも出るポイントに近いということなので、専ら森の中での位置確認に使っている。
 怖いのはホーンケルベロスだ。攻撃的だし、力もあるし、周りをよく見ているので、しばしば犬にも襲いかかる。コイツに会ったら逃げるが勝ちだ。
 それからライカンスロープ。数匹のウェアウルフと一緒に歩いていることが多い。通称”ライカン一家”などと呼ばれるコイツらは、昔は僕にとって脅威だったけど、今はそう怖くない。僕も強くなってるし、何より、コイツらの弱点である火……つまりファイアーボールを使えば割と簡単に倒せるのだ。わざわざ固まって歩いているのが運の尽き。ファイアーボールで一網打尽に出来る。



 ライカン一家を倒してアイテムの整理をしていると、不意に背後に影が。驚いて振り向くと、そこにはオーガが。巨大な斧を振り上げて、今にも僕に向かって振り下ろそうとしていた。間一髪で一撃を逃れ、慌てて距離をとって体勢を立て直す。周りを見てみると、エルフが2人、別々の場所から遠巻きにしていた。狩りの基本は、最初に見つけた者が狩る。獲物を横取りするのは”シーフ”と呼ばれ嫌われる行為だ。つまり彼等はその精神に乗っ取って眺めているだけだったのだが、この時の僕は「助けてくれよ!」と声を大にして叫びたかった。
 オーガを連れて森を逃げる。僕が標的となってオーガを引き付け、ヒューイとルーパスが攻撃するのだ。これでオーガは倒せる。戦い方にも慣れてきたし、失敗はない。だが状況が変わった。森を逃げていると、突如、目の前に別のオーガが現れたのだ! 僕は焦って、町とは反対に方向転換をした。どっちに行こうかなんて考える余裕はない。とにかく一旦距離を取ろうとした。すると、幸運なことに目の前に獲物を探しているエルフがいた。良かった。彼に少し手伝って貰おう。そう思ったのも束の間、彼は僕とオーガを見ると、きびすを返した。そう、獲物は最初に見つけた者のもの。彼はその精神にのっとり、オーガ2匹を僕の獲物だと思ったのだ。
 そりゃあ、僕だってオーガを倒したい。この森に来ている人のほとんどは、オーガが目当てなのだ。エルフの人だって、オーガを狩りたいに違いない。僕は遠ざかっていくエルフを慌てて追い、林の向こうに消えた背中に向かって、必死に声をあげた。「オーガ!」。慌てた僕はそう叫んだ。それは分かってる。誰が見たってオーガだ。言ってから僕もしまったと思った。でもその声の真意は辛うじて彼に届いたらしく、彼は足を止めて僕を待ってくれた。僕はオーガと距離を取りながら、オーガ1匹の退治を彼に頼んだ。彼は快く承知し、すぐに一匹のオーガに向かって弓を射た。



 ケントの森でバラ姐さんと会う。メディテーションなどの魔法が象牙の塔で売られていると教えて貰った。実は塔という響きが怖くて近づいていなかったのだが、3階までは普通の村と変わらず、まったく危険は無いのだそうだ。それならもっと早く行っておけば良かった。

 さっそく象牙の塔の村へ飛んだ。この村を訪れたことは何度かあるけど、初めてこの村から外に出る。そして象牙の塔へ。簡単に辿り着いた。塔の中は広く、美しい大理石で飾られていた。磨かれた床には僕の顔まで映りそうだ。塔は静寂に包まれ、足音が妙に響く。時折、他の人の足音も遠くから聞こえる。この場所で魔法の研究が行われているという。2Fへ上がり、さっそく魔法を購入した。メディテーションの他にも、ヒールオールや、攻撃魔法も幾つか。欲しかった魔法が手に入った。これでもっと狩りが楽になる。僕ももっと強くなれる。



 ケントの北西でオーガ狩りを続ける毎日。オーガから手に入るという「オーガの血」や「オーガベルド」という稀少アイテムは未だ手に入っていない。ここでの狩りは結構アイテムを消費するので、出費がかさみ、お金も少しずつしか貯まらない。でもオーガのアイテムが手に入れば、1つで一気にお金が稼げるのだ。それを夢見て、冒険者達が集まっている。僕もその一人ということになる。
 危ない場面も結構ある。この前は、オーガを倒そうとしている最中に、間違って近くのウェアウルフを攻撃してしまったのだ。ウェアウルフは連帯感が強く、近くの味方が襲われていると、全員が集まってくる。運の悪いことに、その時、側には10匹余りものウェアウルフがいたのだ。それが一斉に僕らに襲いかかった。くわえてジャイアントスパイダーまで出現。ヒューイもルーパスも、オーガを攻撃していた。僕はひたすら逃げようとする。僕が逃げていれば何とかなるかな、と安易に思っていたのだけど、一部のウェアウルフがルーパスを攻撃。ルーパスが動けなくなってしまう。しかし、僕の周りはウェアウルフで囲まれ、助けにも行けない。他のウェアウルフは、今度はヒューイにまで攻撃をしかけ始めた。僕は大きく迂回しながら、辛うじてルーパスの側まで戻り、瀕死のルーパスを助けた。けど、それで精一杯。ルーパスを助ける作業に手間どい、その間にもヒューイが怪我を負い、僕のアイテムも魔法も尽きてしまった。慌てて帰還。もう少しでオーガを倒せたのに。無念だけど、やられてしまうよりはマシだ。それにしても、この時は本当に死ぬかと思った。ルーパスだって、僕の戻るのが遅れていれば、あのまま死んでしまったかもしれない。


 久しぶりに船に乗った。最近はケント西を主な狩り場にしている。オーガを狩るためだ。でも森は夜になると危険を伴うので、夜は別の場所で狩りを行っている。主に話せる島だ。話せる島へは、テレポートを使う。祝福されたテレポートスクロールを使えば、望みの場所に行けるし、以前それを大量に仕入れておいたのだ。おかげで狩りをし、アイテムの売買と補給を行い、休息を取って、すぐに狩り場へ行くことが出来るようになった。だから船は使う必要が無かったのだ。
 いつものように、夜を話せる島の西の岬で明かした。最近は日が明けるのが早く、4時だというのにもう明るい。休息もそこそこに東の浜に移動し、スケルトン退治に精を出した。スケルトンの頭蓋骨はまだ手に入れてないのだ。
 以前は苦労したスケルトンが簡単に倒せる。2、3匹に囲まれても何とかなる。調子に乗って気が付くともう7時。そろそろ魔法も尽きたので、休憩が必要だ。そこでふと、船の出発時間が8時だと思い出した。船の中でも休息は出来るし、たまには船に乗ってみるか。そういう訳で、のんびりと船に乗ることにした。とはいえ、頭蓋骨も諦められない。もう少しだけスケルトンを狩っていこうと欲を出したら、最後の最後で大量のスケルトンに追われ、それに手こずったせいで出発ギリギリに船に飛び乗ることになったのはご愛敬というものだ。
 船の中でゆっくりと休息を取った。グルーディオに着いたら、まずは溜まったアイテムを売りさばこう。それからケントへ向かい、またオーガの森に行くことにしよう。最近は狩りが面白いし、まだまだ欲しい物もあって、お金を稼がなくちゃいけないので、ついつい狩りばかりしていた。たまには、こうして気持ちを落ち着かせるのもいい。せっかくだからゴロウも連れてきてやれば良かったかな……。



 ゴロウを狩りに連れていくことにした。サポートはルーパス。と言ってみたものの、現実はルーパスがメインでゴロウがサポートと言った方がいいかもしれない。狩り場は慣れた話せる島の西の岬。ここならゴロウでも戦えるはず。ゴロウと一緒に狩りをするのは久しぶりだ。僕はわくわくした。ゴロウもきっと同じように感じているだろう。
 ところが始めてみると、意外に辛い。やっぱり相手もよく見ているもので、弱そうなゴロウを狙ってくるのだ。おかげでいつもの狩りより気を遣う。敵も選ばなければいけないし、大勢の敵を一度に相手にすることは避けなければいけない。獲物の山を前にして、数が多すぎるからと黙って他の人が狩るのを見ているだけ、なんてこともある。
 ゴロウはと言えば、マイペースだ。ルーパスとは戦い方が全然違う。僕が指示した敵を激しく攻め立てるルーパスと異なり、ゴロウは遠目から一回ずつ飛び掛かる。一見派手だが効率は悪い。これは狼の特長らしい。やはり狼であるゴロウは狩りには不向きなのだろうか。

 ようやくゴロウとの戦いにも慣れてきた夜中過ぎ、とんでもない目に遭った。発端は近くで狩りをしていたウィザードだ。このウィザードは見た顔だった。言葉は交わしたことがないけど、よくこの狩り場で見かけたのだ。でもあまり良い印象は無かった。狩りが雑に見えるからだ。今回もそのせいで酷い目に遭った。
 その時、彼は獲物に追われていた。オークとゾンビ、グールだ。個別なら何て事のない相手だろうが、なにせ数が多い。オーク5匹以上。ゾンビとグールも5匹ぐらい。たぶん、周りをよく確認せずにオークに手を出したんだろう。オークは仲間意識が強いため、一人が攻撃されるとみんな集まってくる。そこにゾンビやグールといった、放っておいても人間を見かけたら攻撃してくる奴らが集まってくれば、こういう状態になる。彼は10匹あまりに追いかけられていた。
 僕は彼を助けようと思って、側に寄った。が、彼は何も言わない。逃げるのに必死で「助けて」と叫べないのなら、目配せでもしてくれれば分かるのだが、彼は追いかけられながら、適度に距離を取り、たまに攻撃して……と、何の問題もなく狩りをしているようだった。僕は一応、彼が助けを求めるかもしれないと思って、しばらく様子を見ていた。すると彼は、僕の方にやってきた。助けて欲しいのか? そう思った矢先、彼はいきなり居なくなった。そう、我慢できなくなって、テレポートで村に逃げ帰ったのだ。
 問題は残された僕とオークやグール達だ。オークは”敵”を見失って右往左往していた。ゾンビやグールはとにかく”獲物”に飢えている。グール達は次の獲物を、一番近い場所にいた僕に定めた。焦ったのは僕だ。彼等はすぐ目の前。数は5匹以上。彼等は足が遅いので、用意をしていれば撃退できる。が、あまりに突然のことで、僕は慌ててしまった。判断ミスをしてしまったのだ。僕は咄嗟にファイアーボールを撃った。これはまだいい。固まっている相手には効果的な攻撃だ。撃った相手はグールだった。これは問題ない。でも、ファイアーボールは周囲の者を巻き込んでしまう。そう、すぐ近くにいたオークの1匹にも当たってしまったのだ。オークが一斉に僕を睨んだ。即座にやばいと思った。ゾンビとグールはハナから僕に向かってくる。オークもどっと押し寄せる。更に焦った僕はファイアーボールを連発した。囲まれる前に彼等をやっつけようと思ったのだ。ところが、ゴロウを擁護しながらの長い戦いで、僕の魔法は消耗していた。その状況でファイアーボールを連発すればどうなるか。あっという間に打ち止めだ。周りにはまだオークもゾンビもグールも残っている。僕はとにかく走り出した。囲まれたらお終いだ。
 僕が走って逃げている間に、ルーパスやゴロウが敵をやっつけてくれれば助かる。でも今日連れてきたのはゴロウだ。いつものヒューイとは違うのだ。ゴロウはこんな集団で戦える程、実戦慣れをしていない。ゴロウは必死に戦ってくれたが、敵に囲まれてしまった。僕は慌ててゴロウに回復魔法を掛けようとした。でも僕も、混戦での戦いに慣れていない。僕はゴロウにうまく魔法を掛けられない。おまけに、慌てた僕は強い魔法を掛けようとしてしまった。疲れ切った僕に、そんな魔法は使えるはずがないのに。急いで、まだ使える弱めの魔法に切り替えたけど、もたもたしている間にゴロウは倒れてしまった。
 その間、ルーパスは傷を負いながら孤軍奮闘していた。最近の戦いですっかり強くなったルーパスは、これぐらいの相手に囲まれてもへっちゃらだ。本当に逞しくなってくれた。
 更に僕を助けてくれた人が居た。誰かは分からないけど、傷ついた僕に回復魔法を掛けてくれたのだ。おかげで僕は押し寄せてくる敵との距離を測りながら、迂回をしてゴロウの元に戻ることができた。瀕死のゴロウを助ける。力を取り戻したゴロウは、再び立ち上がった。僕の魔法はあと少し。余計な魔法を使う余裕はない。僕は慎重に相手との距離を測りながら、狙いを定めた。回復魔法は使えない。限られた魔法を一撃ずつ相手に撃ち、それを合図にして、ルーパスとゴロウでその1匹を退治する。最後の一匹を倒した時、疲労感と安堵感が襲ってきた。僕らは生き残ることが出来たのだ。良かった。そして少しだけ恨み節も出た。あのウィザードが一言でも言ってくれれば、こんな事にならなかったのに……。

 話せる島の西の岬では、時々、狩り場での縄張り争いが激化する。いつもそうである訳ではないのだけど、ある人達が居るときには、自然とそうなるのだ。そういう時にはとにかく獲物は取った者勝ちになる。どうやら彼等の狩りをする時間というものは、ある程度決まっているようだ。居るときにはまとめて数人いるのだ。それとも、それを知っているからこそ、その時間に他の人は近づかないのだろうか。
 良くない気分で船に乗った。ゴロウと乗る久しぶりの船だ。朝の心地よい潮風で、もやもやする気持ちが洗われるようだ。
 気分を新たに、グルーディオの村に入った。そこで僕が見たのは、死んだまま無惨に置き去られた4匹の狼だった。ゴロウと同じ種類の狼だ。首輪は残っている。けれど主人はいない。
 ゴロウが何かを訴えた。4匹の中の1匹に鼻を寄せる。よく見ると、その1匹だけにはまだ息があった。僕は慌てて助けるための巻物を取り出そうとした。だが、その狼は、僕が見ている前で息絶えてしまった。
 たぶん、さっきまで主人と一緒に狩りに行っていたのだろう。傷は新しい。この傷ついた狼達を、主人は放置したのだ。怒りも込み上げる。だが、きっと止ん事無い理由があったに違いない。そう思って怒りを鎮めた。
 首輪には名前も書いていなかった。ゴロウは哀しそうに、仲間の亡骸を見つめていた。僕は、絶対ゴロウやルーパス、そしてヒューイ達にも、こんな目にはあわせないと誓った。


 嫌なことは続くものだ。ケントの北西の森でオーガ狩りをしていると、目の前をエルフの女性が横切った。彼女は犬を連れていたのだが、そのうちの一頭がついていけずに倒れてしまった。生々しい傷痕がある。相当な深手だ。でも彼女は立ち止まらなかった。飼い犬を見捨てて歩き去ったのだ。ひょっとして火急の用があるのか、それとも助ける術を持たないのか。どちらでもなかった。彼女は傷ついた犬を置き去りにし、もう一頭の犬を連れて、そのまま狩りを始めたのだ。名前も知らない、主人に見捨てられた犬は、深い森の中で息絶えた。哀しかった。ただただ、哀しかった。



 気分転換に、ウッドベックの近くで狩りをすることにした。久々のリザードマン退治だ。途中、休息のためにシルバーナイトタウンに立ち寄ると、こんな噂が飛び込んできた。「オアシスが大変なことになっている!」どうやらオアシスに、信じられない量の怪物が出ているらしい。まさに泉が湧くが如く、だ。
 僕は少々の好奇心もあって、オアシスに向かった。砂漠を歩いていると、いきなりスコーピオンとジャイアントアントが襲ってくる。しかも数が多い。まだオアシスまでは遠いというのに。おまけに ジャイアントアントソルジャーまで出てきた。動きも速い。普段なら全力で逃げれば逃げ切れるのに、巻くことが出来ない。ここでこんな状態なら、オアシスは一体どんな状態なのか。
 テレポートで巨大蟻たちを振り切ったあと、またスコーピオンなどを撃退しながら、僕はオアシスへ向かった。そしてオアシスに近づくと、そこにはもの凄い数の人間が居た。オアシスを埋め尽くすほどの冒険者だ。オアシスに怪物が大量に出現したという噂を聞いた強者達が、世界各地から集まってきたのだ。その数は到底数えようもない。なにせ人が多すぎてオアシスにたどり着けない程なのだ。
 彼等の働きによって、オアシスに出現した怪物はすでに退治されていたようだ。あちこちで、仕事を終えた冒険者達がテレポートで帰還する光の柱が立った。互いを労い、あるいは戦利品を見せあいながら、みなが帰路につこうとしていた。僕もオアシスに寄るのは諦め、砂漠を歩いてウッドベック村へと渡った。
 僕なんかが行っても、きっと邪魔にしかならなかっただろうけど、少しだけ見てみたかった。



 どうやら季節は下っているようだ。あれほど長かった日が、日に日に短くなっていく。今日の夜明けは5時近くだった。季節の移り変わりを目の当たりにすると、僕がここで過ごした日々の長さも実感する。歌う島に流れ着いてから何日が過ぎただろうか。海岸で夜明けを見た。しばしの休息。完全に日が昇った頃、再び狩りへと戻った。



 先日、話せる島で夜を明かしたあと、波止場で船の出発時間を待っているときだった。目の前に、光輝く鎧を着た一人のナイトが立っていた。その顔を僕は覚えていた。アルティメットバトルで何度も見た、あのSlayn氏だった。なぜ氏がここに? そう思っていると、氏はすぐにテレポートで何処かへと行ってしまった。氏がこんな場所に狩りに来るはずもない。取引でもしていたのだろうか。
 そんな事があったのだけど、今日、砂漠での狩りに挑戦しようと思ってオアシスに飛ぶと、僕が出現したすぐ目の前に、やはりナイトが立っていた。彼の鎧も光り輝いていた。Yan2氏だった。彼もまた、アルティメットバトルで名を馳せている人だ。僕はびっくりして、オアシスでのアイテムの補給も忘れて立ち尽くしてしまった。氏はしばし佇んだ後、身支度をして砂漠へと向かった。すぐ近くにはホーンケルベロスがいた。僕がいつも逃げ回っている相手だ。氏はそれをあっさりと退治し、砂漠へと消えた。

 砂漠での狩りでは、なかなか収穫があった。けれど、やはり僕には辛い。ヒューイとルーパスを連れ、準備を万端にしていても、敵の数が増えると逃げる意外に手が無くなってしまう。おまけに少しミスをしただけでも取り囲まれる。やはりまだまだ砂漠での狩りは難しいようだ。収穫があっても、準備やら回復やらでお金が掛かってしまい、結果的には儲けが出ないこともある。現実的にはメリットはあまり感じられないのだ。でも、少しでも難しいことをしていかないと、もっと強くなることは出来ない気がする。



 砂漠で狩りをしていると、二人組の男が倒れていた。一人はナイト。もう一人はエルフ。どうやらジャイアントアントソルジャーにやられてしまったようだ。バラバラになった複数の死骸が、彼等と一緒に横たわっている。ジャイアントアントソルジャー、冒険者はGASと呼んでいるが、コイツらの牙は凄まじい。噛みつかれると、鎧を着ていても腕や足がもげてしまいそうな激痛が走る。コイツに囲まれたら、相当の強者でない限り、たとえ二人でも太刀打ちできないだろう。
 近づいてみると、彼等の二人にはまだ息があった。慌てて蘇生を試みる。彼等は命を取り留めた。一人が、しきりに「骨兜を落とした」と残念がっていた。骨兜は、強化が出来ないので上級者向きではないが、軽くて丈夫な兜だ。僕も以前使っていた。どうやら彼等が倒れた隙に、何者かが奪っていったようだ。
 立ち話を始める間もなく、ジャイアントアントが襲ってきた。更にはジャイアントアントソルジャーまで。別れの挨拶を交わす間もなく、僕らは反対方向に走りだした。固まっていては囲まれるだけだ。僕にはジャイアントアント2匹がついてきた。
 そのジャイアントアントを倒したあと、しばらく狩りをしていた。スパルトイという青っぽい色をしたスケルトンのような奴を倒すと、骨兜が出てきた。スパルトイがそんな物を持っているはずがない。とすれば、さっきの人達の物のようだ。
 ウッドベック村に帰ったあと、告知を出した。「砂漠で倒れていた二人組。骨兜を預かってます」でも返事は無かった。しょうがない、これはしばらく預かるとしよう。そう思いながら休息を取っていると、目の前に見覚えのある二人組が現れた。さっきの二人組だ。僕はすぐに声を掛けて、無事に骨兜を返すことが出来た。




 夜明け直後、突然の報せが駆け抜けた。オアシスでまた怪物が大量に発生しているというのだ。ホーンケルベロスの大軍が出ているという。その時の僕はシルバーナイトタウンで休息を取っていた。オアシスは目と鼻の先。だが僕はまだ疲れが抜けていない。その上、僕なんかが行っても役に立たないだろう。
 しばし躊躇したけど、取り敢えず遠目からでも様子を見てみようと思い、砂漠へ向けて出発した。ひょっとしたら誰かの回復ぐらいは出来るかもしれない。それに、僕でも相手出来るスコーピオンなども多めに発生しているかもしれない。それなら狩りをするチャンスだ。

 オアシスへと向かう途中、スコーピオンに遭遇した。それを撃退してオアシスへ向かう。と、今度はジャイアントアントソルジャーが。コイツも何とか撃退。だが、次々と蟻達が現れる。これも怪物が大量発生している影響なのだろうか。迫る蟻達から、僕は一度距離を取ろうとした。その時だ。僕の足下が崩れた。宙に投げ出されるような感覚。ドサリと落ちると、そこは暗闇だった。幸運なことに、夜に使った明かりの魔法がまだ効いていたようだ。僕の周りが明るく照らされている。そこはどうやら洞窟のようだ。呆然とする僕の体には、天井からひっきりなしに砂が落ちてくる。どうやら僕は、砂漠に空いた穴に飲み込まれてしまったらしい。
 ここは一体どこだろう? 考える間もなく、ジャイアントアントが僕に迫ってきた。慌てて立ち上がる。ハッとした。ヒューイは? ルーパスは? まだ上に居るのか? だが考える余裕はない。僕は目の前にまで迫った蟻に魔法を撃った。直後、暗闇から黒い影が飛び出してきて、僕に噛みつこうとした蟻に体当たりした。ヒューイだ。ルーパスもそれに続く。僕が状況を掴むよりも速く、二匹は蟻を撃退してくれた。
 僕は二匹は一緒に穴に落ちたようだ。これは不幸中の幸いと言ったところだろうか。僕一人ならどうなっていたか分からない。少し冷静になって辺りを見回してみた。真っ暗な洞窟の中だ。壁は砂というよりも、脆い岩のようになっている。これが砂漠にある蟻の穴だと気づくのに、そう時間は掛からなかった。いつもは気を付けて迂回をするのに、オアシスへと向かう道中を焦っていた僕は、うっかり蟻穴に落ちてしまったのだ。

 とにかく、ここに留まっていても仕方ない。僕はヒューイとルーパスを連れて、そろそろと歩き出した。明かりがあるとは言え、洞窟の中はあまりに暗く、先は見通せない。いつ暗闇から化け物が飛び出してくるかと思うと、心臓が破裂しそうなほど緊張する。
 しばらく行ったり来たりを繰り返す。蟻穴は入り組み、行き止まりも多い。曲がりくねっているので方向も掴みづらい。時々現れる蟻を退治していると、ともすれば自分の位置を見失ってしまう。それでも僕らは進んだ。出口を必死に探しながら。

 やがて、上へと続く急な坂を見つけた。ここから外に出られるかもしれない。そう思って進んだ僕の期待はあっさり裏切られた。そこは真っ暗な洞窟が延々と続いていた。それに、どうやら更に状況が悪くなっていそうだ。僕はさっきの場所に引き返した。やはり、落ちてきた辺りで出口を探すしかない。
 出口が見つからぬまま蟻穴を歩き回った。どのくらい歩いただろう。そろそろ魔法も尽きてきた。いよいよ危険になってきた。その時、暗闇からカサカサと足音がした。蟻だ。しかも1匹じゃない。数匹はいる。現れたのは、2匹のジャイアントアントソルジャーだった。僕は震え上がった。逃げよう! 咄嗟に背中を向けた。だがここは洞窟だ。すぐに壁に当たった。逃げ場はない。おまけにジャイアントアントまで加勢に現れている。でも戦うしかない。逃げ場はないんだ。僕は残ったありったけの魔法を費やし、ファイアーボールを撃った。傷の回復にも魔法とアイテムをつぎ込む。意外にも、狭い洞窟は僕にとって幸運だった。彼等が僕を取り囲むことが出来ないのだ。僕が走り込んだのは、偶然にも狭い通路のような場所で、僕が対峙するのは2匹まででいい。僕が必死に堪えている間に、ヒューイとルーパスが蟻をやっつけてくれた。

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、別の蟻がまた現れた。僕はその姿を見るなり逃げ出した。もう魔法は残り少ない。マトモに戦ったら勝ち目はない。
 その時、僕はハッとした。走りながら慌てて荷物の中を探る。確か近くの村に飛べる巻物があったはずだ。荷物の中にあったのは最後の1枚。僕は迷わずそれを使った。体が宙に浮くような感覚があり、次の瞬間、僕は眩しい太陽の下にいた。辺りを人々が行き交う。シルバーナイトタウンだ。助かった。僕はようやく胸を撫で下ろした。砂漠を歩くときには、もっと気を付けよう。


 僕が蟻穴で右往左往している間に、オアシスでの騒動は片付いてしまったようだ。町はいつもの通りだった。



 オアシスでの危機は収まっていないようだ。僕が砂漠に普通に狩りに行こうと思ってオアシスの近くを通りかかったら、何やら人だかりが見えた。近づくと砂煙が舞うほどに騒然としている。まるで戦だ。そう、まさに今、大量発生した化け物達と人間との戦いが行われていたのだ。話に聞いていたホーンケルベロスだけでなく、アルティメットバトルでしか見たことの無かったサラマンダーまでいる。サラマンダーの体は紅蓮の炎を纏い、激しい蜻蛉でその姿が捉えられない程だ。そんな化け物を相手に戦っている人達が居るのだ。僕は戦いを遠巻きにしながら、少しだけ戦いに協力をした。僕にも攻撃魔法はあるが、そんなことをしてモンスター達に狙われたら一環の終わりだ。僕に出来るのは戦っている人達を回復させることぐらい。僕の回復ではたかが知れているかもしれないが、それでも、いま僕に出来ることをしよう。
 僕は懸命に魔法を使った。だが、熱中するあまり、自然と前に出てしまっていた。気が付くとサラマンダーが僕の目前にいた。灼熱の炎で、近づくだけで眉が焦げるかと思った。直視が出来ない程だ。僕は逃げようと思ったら、驚いて一瞬からだが硬直してしまった。サラマンダーはもう目の前だ。もうダメだ。僕は思わず目を閉じた。僕の体を、鉄をも溶かす炎が焼き尽くす……かと思ったら、熱さは体を通り過ぎてしまった。恐る恐る目を開けると、サラマンダーは僕の背後を遠ざかっていった。どうやら別の人が標的になっていて、その人が僕の近くを通り過ぎただけらしい。命拾いをした。
 僕はすぐにその場を離れた。一度距離を置き、それから再び僕に出来ることを考えようと思った。でも僕は馬鹿だったらしい。あろう事か、人を避けて迂回したときに、蟻の穴に落ちてしまったのだ。つい先日、これからは気を付けようと言ったばかりなのに!
 僕はすぐに帰還の巻物を使い、シルバーナイトタウンに戻った。途端に疲れが襲ってきた。残念ながら残りの魔法も少ないし、今から行っても役には立たないだろう。僕は町の片隅に腰を下ろし、疲労を回復させながら、焦燥感が消えるのを待った。


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