リネージュ日記
<再び旅立つ・あるクランの幕引き・忘れられた島を望む・INTアミュに夢を見る>


 日が長くなってきた。目覚めるとすっかり明るく、日が暮れるまでの余韻が長い。怪我をしてから随分と長い時間が経った。
 のんびりとした午後を過ごすのも楽しいものだ。夜はしっかり寝て、昼間は適度に遊んだり、寝て過ごす。なんて優雅なんだ。幸いにも、僕はこれまで稼いだ金を幾らか備蓄していたので、生活には困らない。
 狩りには行っていない訳ではない。ほんの時々だけど、かつて通った場所に行ってみた。今の狩り場では、手を負傷した状態ではまともには戦えないが、駆け出しだった頃に通っていた場所なら平気だ。久々にゴロウを連れて行った。狩りと言うより散歩に近い。
 ゴロウは、すっかり今の生活が気に入っているようだ。命令すればちゃんと狩りを手伝ってくれるが、それ以外は、ぼーっと過ごしている。怠惰にも見えるぐらいだ。でも、それがゴロウには楽しいのだろう。
 今ならゴロウの気持ちも分かる。けれど、拭えない思いも確認が出来た。僕の中には、やっぱり何かを求めて止まない渇望が眠っている。その正体は分からない。何を求めているのかも分からない。けれど僕は、今の平和で退屈な日常を幸せと感じながらも、時折、狩り場へと思いを馳せている。
 僕は、冒険者というこの危険で刺激的な職業に、何かを見出そうとしているのかもしれない。



 にわかに町が騒がしくなった。冒険者達がそわそわしている。大きな事件を聞きつけたようだ。
 浜辺に一つの瓶が流れ着いたという。それは長い時を超え、忘れられた島から届いたものだった。

 忘れられた島……それは時代に取り残され、文献からも消失し、ついには名前も場所も、そして存在さえも忘れられてしまった古代の島だ。たった1つの瓶が、その忘れられた島の存在を、人々に思い出させた。
 伝説は嘘ではなかった。冒険者達が色めき立った。眉唾と思われていた口伝えの伝承の数々が、忘れられた島に眠る古代の財宝を裏付けていた。
 この大陸は僕にとってはまだ広大だ。だが強者の冒険者達にとっては狭すぎる。彼等はもっと強い刺激と、もっと大きな目標を求めていた。この忘れられた島の存在は、彼等の渇望を潤す大きな舞台として注目を集めた。
 新しい冒険が始まろうとしていた。僕も、そろそろ重い腰を上げようかと思う。まだ手は痛いが、いつまでもこうしてはいられない。忘れられた島にも一度行ってみたい。他にもやりたい事は多い。僕は少し休みすぎたかもしれない。

 遠くの空を見た。話せる島の海岸は静かだった。どこまでも続く青い海原。澄んだ青空。この向こうにアデン大陸がある。そして忘れられた島も。ゴロウが僕を見上げた。ゴロウは何かを悟ったのか、静かに昼寝に戻った。
 また来るよ。そう言い残して、僕は冒険に戻った。



 先日、とあるクランが解散したという。普段なら関係ないと聞き流しただろう。けれど挙がった名前に覚えがあった。
 解散したクランの名は7thNightmare同盟という。一時は城を持つまでに至った名のあるクランだ。君主はウィンダウッド城を守っていたTrident氏。僕は彼を一度だけ見たことがある。そう、以前リザードマン狩りをしていた頃に、ウィンダウッドの城門で見たあの人だ。クランは解散し、Trident氏は引退して身を隠した。

 クランの解散はそう珍しいことではない。無数のクランが生まれては消えていく。名を残すのはその中のほんの一握りだ。
 クランの運営はとても大変だと聞く。僕の入っているクランの君主であるMao氏を見ていてもそう思う。僕らのクランは和気あいあいとして、また個人で活動することが多いのだけど、そんな風にバラバラに動いているクラン員達に対しても、Mao氏は、各々のクラン員が上手く自分の道を進めるようにと、大げさにならぬように気を配って下さっている。Mao氏自身もやりたいこともあるだろうし、お体が優れないこともあるだろうのに。僕が休養から復帰したときも、まだ少し痛む僕の手を心配して下さった。

 クラン全体で目標を掲げているならもっと大変だろう。戦争し、城を獲得することを目的としているなら尚更だ。お金も掛かるし、人員も集めなければならない。人の出入りも激しいだろう。時には戦いで興奮したクラン員が衝突を起こすかもしれない。それを取りまとめ、戦いを進めることの難しさは想像を絶する。
 城を奪われたある君主が「ほっとした」と漏らしたことがあるという。戦いに身を委ね、城を守り続ける苦労は並大抵ではないだろう。

 クランを束ねるという責務が、時に君主の体や心を蝕んでいたとしても不思議ではない。Trident氏も重圧を背負い続けていたのかもしれない。
 解散の真相は定かではないが、報せを耳にした僕は、あの時に見た氏の姿を思い出さずにいられなかった。決戦の時を前にした氏は、腕組みをして一心に遠くを見ていた。海からの風に髪とマントがなびいていた。その姿はとても凛々しく、荒野を抜ける潮混じりの風がよく似合う。彼はきっと、迫り来るだろう敵を想像し、それを見据えていたのだろう。
 だが今になって、彼が見ていたのは違ったものだったのではないかと思えてきた。ウィンダウッド城の南には荒れた岩壁が続いている。城門からも遠くに海が見える。彼の目は海に向けられていたのではないだろうか。遙か広がる海に彼は何を見ていたのか。彼の目は、ずっと遠くを見ていたに違いない。
 言葉を交わしたこともない、ただ一度すれ違っただけの君主の引退に、僕は寂しさを感じた。
 僕もいつか、この生活から足を洗うときが来るだろうか。それはいつ、どんな形で訪れるのだろう。



 忘れられた島へ向かうには、ハイネ近くにある波止場から船に乗らねばならないという。僕はその波止場の位置を確かめるために、ハイネに向かった。
 ハイネに来るのは久しぶりだ。ふと、昔の恐怖が思い出される。ギランからシルバーナイトタウンに向かう途中でラミアに出くわし、僕は命からがら逃げ出した。あの頃よりも僕は強くなっている。マナスタッフを手に入れてからというもの、敵に接近して戦うことも覚えた。きっと大丈夫だ。

 ハイネの町は、変わらず美しかった。輝く湖の青を思わせる屋根。張り巡らされた水路。石畳も美しく、壁や町中の置物でさえ美術品のようだ。その輝きはどこか厳かで上品だ。こんな所に住んでいる人達は、どんなに素敵な人達だろう。きっとお金持ちばかりに違いない。
 でもきっと、僕がお金持ちになったとしても、この町には住めない。ここは僕には煌びやかすぎる。裕福さは憧れだが、人の妬みや卑しさを膨れさせる。分不相応の宝は身を滅ぼすばかりか、無関係な人までも不幸に巻き込む。僕はそのことを良く知っている。煌びやかな宝は、僕をわくわくさせる。けれど、哀しい気持ちも思い出させずにいられない。

 波止場はハイネの南の方にあるらしい。さっそく探してみることにした。
 ハイネを一歩踏み出ると、さっそくモンスターが襲ってきた。ラミアだ。僕は一瞬足が止まった。本当に戦えるのか? またやられてしまうのでは? 不安が過ぎる。でも大丈夫だ。僕は自分に言い聞かせて、ラミアに向かった。
 ラミアの攻撃はなかなかに鋭かった。時に巻き付き、僕の骨が折れそうな程に締め付ける。だが、僕だって昔ほど弱くはない。最初こそ後込みしたが、僕はすぐに自信を取り戻した。ラミアとでも十分に戦える。

 調子に乗って歩き出すとリザードマンがいた。そしてラミアも。ちょうどいい。コイツらもやっつけてしまおう。僕が意気揚々と戦いを始めると、何やら不思議な音がした。その音に聞き覚えはない。だが僕は嫌な予感がした。嫌悪感を伴った強い視線を感じる。大きな茶色の物体が近づいてきた。ゲイザーだ!
 僕は焦った。巨大な目玉のお化けのようなこの奇妙な生物は、そのでっかい視線で獲物を動けなくしてしまう。ゲイザーに睨まれて体が動かなくなったら、あとは周りの敵にやられるだけだ。僕は必死に逃げた。が、通せんぼをするようにジャイアントスパイダーが現れる。おまけに2匹だ。足の速いジャイアントスパイダーが僕の行く手を遮った。ラミアも追いついてきた。周りを取り囲まれてしまう。ヤバイ。そう思ったときには遅い。ゲイザーが手の届きそうな所まで近づいていた。
 もう悠長になんてしてられない。僕はファイアーストームで必死に応戦した。とにかく逃げ出す隙間を開けないと。薬で回復させながら、ファイアーストームを連発する。ジャイアントスパイダーが甲高い悲鳴を上げて縮こまった。ようやく目の前が空いた。僕は急いで包囲から脱した。振り返った僕は、倒れたヒューイの姿を見た。ルーパスもゲイザーに睨まれ固まってしまっている。ゲイザーは次の標的を僕に定めた。これ以上は無理だ。僕は慌てて帰還し、なんとか窮地を脱した。

 ハイネで装備を点検すると、僕は再出発した。今度は慎重に。ゲイザーとは戦わないようにする。またしてもラミアとドレッドスパイダーに囲まれるが、何とか退治して西へ。途中、通りすがりの冒険者が、今日は空いているなと話していた。なるほど、こんな風に囲まれてしまうのは他に人がいないからか。それなら納得出来る。
 少し西へ行ってから、すぐに南へ。地図の通りであれば、じきに海岸に出るはずだ。歩くことしばし。目の前が急に開けた。海岸だ。廃船と人の姿が見える。遠くには桟橋も見えた。近づいてみると人だかりになっている。皆、忘れられた島へ向かう冒険者達だ。
 チケットを売っている男に話を聞いた。犬は連れていけないらしい。やはり僕一人では無理なようだ。僕はヒューイやルーパスがいなければ、ろくに戦う事が出来ないのだ。行くなら、クランの人達が行くときに一緒させてもらおう。
 チケットを1枚買っておいた。1万アデナもする。これを使って島に渡る日が来るだろうか。



 長い休みで鈍ったカンを取り戻すために、ブラックナイト以外の狩り場へも行ってみることにした。今回の狩り場は砂漠だ。最初は砂漠から蟻穴に入っていたのだけど、何となく砂漠での狩りにも挑戦したくなった。色々な狩り場で試してみることはいいことだ。
 やってみると、確かに自分の成長を確認できる。スコーピオンとも楽に戦える。それにこの辺りには、スパルトイも多くいる。スパルトイはマナを吸収するのに都合のいい相手だ。マナスタッフを使っていると、スケルトンやスパルトイといったモンスターは歓迎できる。

 しばし、スコーピオンやジャイアントアントを狩っていた。意外に楽だ。自信を付けた僕は、あることに挑戦してみたくなった。それはバジリスクだ。
 バジリスクは、この砂漠に出現する、とても強いモンスターだ。緑色の巨体を揺すりながら砂漠をはい回っている。バジリスクの吐く白い息は相手を石化してしまう。怖いモンスターだ。その分、バジリスクは凄い宝を持っていることがある。たとえば腹から出てくるダイヤモンドだ。バジリスクがどこかの穴から掘ってくるのか、それとも腹の中で蓄積されて固まるのか分からないが、中には最高級品として何十万アデナもで取り引きされるものがある。

 僕はしばし砂漠をうろついた。バジリスクはそう数はいない。遭えないときは、いくら歩き回っても遭えないものだ。が、この時は割合簡単にバジリスクを発見した。
 僕は装備を確認し、ヒューイやルーパスにもヘイストをかけるなど、準備を万端にしてから、バジリスクに向かった。これは僕の挑戦だ。
 瞬間、バジリスクの白い息が僕を包んだ。僕は思わず息を止めた。体が固まったら終わりだ。一瞬不安が過ぎった。が、白い煙は風に流れて解けた。大丈夫だ。僕はバジリスクを懸命に叩いた。ヒューイやルーパスも一斉に攻撃をしかける。
 その時、バジリスクが妙な動きをした。腹の下に何かを隠している。ガシャッとガラスを踏み割る音がした。オレンジ色の液体がバジリスクの腹から流れる。バジリスクはそれを美味そうにベロリと舐めた。みるみる内に、バジリスクの体について傷が癒えていく。人間用の回復薬だ。しかも強力な。僕はぞっとした。きっと誰かからバジリスクが奪ったのだろう。
 意外にもバジリスクは賢いらしい。人間が使っている回復薬をかぎわけ、こうして使うことが出来るようだ。僕たちがどんなに頑張って攻撃しても、バジリスクはベロベロと回復薬を舐めて治してしまう。一体どれだけの薬を持っているのか。腹の下にあるのでは分からないが、相当な量があるはずだ。
 僕は頑張って攻撃をし続けた。バジリスクは、たびたびヒューイやルーパスを標的にした。防具で守られていないヒューイ達は、バジリスクに1回噛みつかれただけでも深い傷を負ってしまう。僕はその度に魔法で回復させた。彼等は痛みを堪えながら懸命に戦ってくれた。でもバジリスクが倒れる様子はない。おまけに血の匂いを嗅ぎつけたのか、スコーピオンが二匹も集まってきた。僕の魔法も残り少ない。

 本当は、この時に逃げてしまった方が良かったかもしれない。でもここまで来て逃げるなんて、と僕は躊躇した。とにかく倒してしまわないと、次の人も同じ目に遭ってしまう。僕は必死で戦った。誰かに助けを求めようにも、そんな余裕さえなかった。こんな時に限って人も通りかからない。
 魔法もいずれは尽きてしまうだろう。僕は絶望感を感じた。ここまでか……。そう思ったとき、バジリスクの一撃がヒューイの体に突き刺さった。ヒューイは血を大量に流してその場にうずくまる。僕が怯んだせいで、魔法の発動が遅れてしまったのだ。バジリスクは僕の方を見た。ルーパスも傷だらけだ。バジリスクがゆっくりと一歩を踏み出す。僕は無念さを感じながら帰還スクロールを使った。

 町に戻ってから後悔した。僕が躊躇ったおかげでヒューイがやられたのだ。バジリスクが回復薬を使った時点で、僕の手に負える状況ではなくなっていたのだ。それを即座に判断すべきだった。ヒューイの怪我は大したことなかったけど、もっと早く帰還していれば、ヒューイもルーパスも僕も、こんな痛い目に遭わずに済んだ。



 知力のアミュレット、通称INTアミュを買うために、魔法も買わずにお金を貯めていた。このアミュレットを着けると魔法の力が強くなるのだ。
 僕としては実感がないのだけど、僕は元々、魔法の力が強い方らしい。だから長所を伸ばすという意味で、もっと魔法の力が強くなるこの知力のアミュレットを手に入れてはどうかとアドバイスを受けていた。

 知力のアミュレットは稀少品で、なかなか手に入らない。売りにも出ない。出たとしてもかなり高い。200万アデナ以上するのだ。コツコツと貯めるしかない。狩りではなるべく出費を抑えて効率を心がけ、ようやく手が届きそうなぐらい稼ぐことが出来た。
 ここしばらく、狩りの合間などに、売りに出ていないかチェックしていた。でもなかなか見なかった。
 それがここ数日になって売りを目にするようになった。ネックは値段だ。僕の予算を超える230万アデナ。諦めて見送っていたのだけど、どうやら買い手がつかないらしく、何度も告知が出た。これはチャンスかもしれない。僕は頑張ってお金を貯めることにした。倉庫の中に眠っている物も売り払ってしまおうかと考えた程だ。
 そして今日。お金も貯まってきて、もう少しで230万に届くという時だ。僕はある告知を目にした。「INTアミュを210万アデナで売ります」。ここ数日の人とは別人だ。僕はすぐに飛びついた。210万ならギリギリ足りる! 売り主に連絡をして、ドキドキしながら返事を待った。僕はとても緊張した。この世界の取引の習わしでは大抵、だめな場合、つまり他の人に決まってしまった場合は、連絡が来ない。
 僕は待った。グルーディンの町で待った。ヒューイとルーパスは不思議そうにしているが、僕が緊張しているのが分かったのか、どうも落ち着かない。そして連絡が来た。「貴方に決定します」

 売り主は”あひるの姫”と名乗った。可愛らしい名前だ。きっと通り名だろう。どこか惚けた名前でもある。彼女はわざわざグルーディンまで来てくれるという。僕はまた待った。やっとINTアミュが手に入る。考えただけでワクワクする。が、一瞬不安も過ぎった。マナスタッフの時のことだ。あの時は何度か肩すかしをくらった。この国は、いや、冒険者達の世界は生き馬の目を抜くような厳しい世界だ。土壇場でひっくり返ることだって無い訳じゃない。それを恨むのは筋違いだが、落胆するのはやはり辛い。
 時間が長く感じた。随分待った気がするのだけど、相手が来ない。ヒューイやルーパスも落ち着かない。時間を確認してみたが、そんなには経っていない。頼むよ、来てくれよ、と願った。僕は待ちきれなくなり、町の中を歩き出した。ひょっとしたらもう着いているかもしれない。僕は倉庫の前に居たのだけど、相手は掲示板や店の前にいるかもしれない。あるいは僕を捜して歩き回っているかもしれない。
 僕は念のため倉庫の周りを一周してから、掲示板や店がある広場へと向かった。幾人かとすれ違う。でも誰も違うようだ。もっと向こうまで行ってみよう、そう思ったとき、目の前にすらりとした女性のウィザードが現れた。線は細いが自信に満ちた佇まいだ。ゆったりした歩き方も堂々として見える。きっと数多くの修羅場をくぐり抜けてきたに違いない。僕がその姿に目を奪われると、彼女もこちらを見て立ち止まった。彼女こそが”あひるの姫”だった。

 取引はすぐに終わった。マインドベルトを手に入れたとき以来の高額の取引だ。間違えないように慎重にお金を数えた。さっきまでの不安が馬鹿らしく思えるほど簡単に、知力のアミュレットが僕の物になった。
 「テイマーですか?」と彼女は訊いた。気品のある優しい笑顔だ。テイマーとは、つまりモンスターをテイムするウィザードのことだ。テイムモンスターには魔力の強さが求められる。知力のアミュレットを欲しがるということは魔力を高めようということであり、それは即ち、テイマーの可能性が高いと彼女は推察したのだろう。そう訊かれて、僕はふと思い出したことがあった。以前、Elwing氏に冗談交じりで言われたことだ。「ドレイクのテイムを目指してみたら?」。
 ドレイクというのは非常に強いモンスターだ。数人がかりでやっと倒せる。屈強なナイトでさえ、一人では逃げ出すほどだ。当然テイムなど不可能に近い。だが少し前に、この国ではない、どこか遠くの国で、そのドレイクをテイムすることに成功した者が現れた。噂はあっという間に広まり、一時期はその話で持ちきりだった。僕にとっては、あまりにも途方も無さ過ぎて、ただただ感心しただけだった。
 夢と言うにはあまりにも大きすぎる話だ。でもいつか、もしも、僕にもそんなことが出来たなら……。
 僕は貧弱で経験も浅い。魔法もまだまだ覚えていない。この国で行っていない場所だって多い。ドレイクのような強いモンスターとも戦ったことがない。せいぜい町の近くの狩り場で戦うぐらいだ。でも最近になって少し自信がついてきた。どうやら、僕の魔力はそう捨てたもんじゃないらしい。経験豊富な周りの人達にはそれが分かっていたのだ。だから彼等は冗談を交じえながら、こう言おうとしたのだと思う。自分の力をもっと生かせよ。それを生かせばもっと何か出来るはずだろう……と。

 新しく手に入れたINTアミュをさっそく身につけた。自然と胸が高鳴った。
 あの時、Elwing氏は、いつものように茶目っ気たっぷりに笑っていた。あひるの姫の笑みがそれに重なった。
 夢見ることを許される所までは、僕は来ているのかもしれない。あひるの姫の何気ない一言は、僕をわくわくさせた。

 でもあんまり浮かれすぎて、楽しみにしていたアルティメットバトル観戦を忘れてしまった。残念。



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