[ゲームスタート] |
外の話し声でうつろな夢から覚めた。 寝返りを打つと、強烈な日差しが目に入る。夏の太陽だ。 同時に、もやぁっとした熱気が肌にまとわりつくのを自覚する。 寝ぼけ眼のままリモコンを探す。テレビを点けると、昼前の番組が映った。 時計は11時過ぎを示している。 夏休みという名の連休もこれで4日目。誰もが旅行だ里帰りだと騒ぐ中、 ゴロゴロと毎日を過ごす。旅行しようと誘われはしたのだが、なんとなく 行く気になれなかった。 なにもすることがない。邪魔する者もいない。優雅で退屈な休みだ。 もうひと眠りする 出かける |
うとうとと眠りにつく。むせ返るようなじめっとした熱気は、田舎出身者に は耐え難い。だがこの街に住んで8年。もう慣れてしまった。 笑い声で目が覚めた。テレビだ。この部屋とはまるで違う爽快な笑い声。 世間では休日だというのに、芸能人は大変だ。などと下らないことも考える。 取材と称して旨そうにソバを食っている。ズルズルッ、ズルズルッ。ぐ〜。 かき込む音に答えて腹の虫が鳴った。 とりあえず出かける 飯でも食う |
お気に入りのTシャツを洗濯物の中から探し出す。夏は着替えが楽でいい。 Tシャツ半ズボンで十分だ。 さて、どこに行くか。この暑いのに遠出するのは嫌だしな…。 とりあえずゲーセンへ 飯を食いに行く |
近所のゲーセンに入る。そこそこクーラーも効いていて、休むにはちょうど いい。自分と同じ暇な人間が、何人か遊んでいる。 ぐるりと回ってみると、クレーンゲームの中身が新しくなっていた。中を物 色していると、ぬいぐるみと目が合った。緑色のカエルだ。なんというか、 奇妙な表情をしている。男には分からないが、女ならきゃーきゃー言って喜ぶ のだろう。 「俺に挑戦するとはいい度胸だ」 冗談半分で1プレイ。音楽に乗ってアームが走る。カエルは体を少し捻った だけで、事も無げにアームをかわした。そしてまた視線が合う。 なにがなんでも取る そこまで固執してられない |
1プレイ。2プレイ。3プレイ。まるで武道の達人のようにヒョイヒョイと 攻撃をかわすカエルに、機械のアームで何度もパンチを繰り出す。 4回目、ようやく達人ガエルは力尽きた。アームに運ばれ、景品出口へ落と される。挑戦者を倒して思わずガッツポーズ。 近くで見ると、やっぱり変な顔をしていた。 コンビニへ |
なにをするともなく、いつものゲームを1つ2つプレイする。新しいものが あるわけでもなく、なにか盛り上がるものがあるわけでもない。メダルゲーム で時間をつぶし気にもならない。 適当に遊んだ後、コンビニへ向かった。 コンビニへ |
馴染みの定食屋に向かう。旨いと言うよりは、安くて量が多い店だ。 だが店に着くと、シャッターが降りていた。紙に手書きで「盆休みで休業致 します」と書いてあった。まったく、ついてない。 ゲーセンに行く コンビニに行って帰る |
この期間は、立ち読みするものもない。即座にカゴを持って歩き出す。 気づくとカゴにはビールが4本。帰ってから1本、夜に1本飲むとして、 残りの2本は誰が飲むんだ。暑さでボケたか、と自分にツッコんでみる。 一応買っておく 2本で十分 |
ビール4本とツマミ類、それに弁当を買ってコンビニを出る。 帰りかけて、隣のビデオ屋が目に入った。せっかくだからビデオでも借りて いくか、と自然に足が向いた。 ビデオ屋へ |
いつもなら立ち読みでもするのだが、この時期には新刊も出ていない。食い 物と飲み物を適当に買って帰ることにする。弁当やらジュースやらをカゴに放 り込み、最後にガラス板をのぞき込む。 「今日はこれにするか」 今夏新発売のアイス。5種類のうち3種類までは制覇した。これで4種類目。 あと一歩で全制覇だ。 レジに行くと、棚の整理をしていた店員がタタタッと走ってきた。 「お待たせしました」 高めの声で言われる。にこにことよく笑うハタチ過ぎぐらいの女性だ。 美人と言うよりは可愛い感じ。時間帯が合うのか、よくレジに入っている。 「ありがとうございました」 明るい声に見送られ、なんとなくいい気分で帰路についた。 家へ帰る |
ビデオ屋に入り、つらつらと棚を見る。なかなか在庫が多く、見ているだけ で時間が過ぎていく程だ。だが、長引くと買ったビールが温くなってしまう。 狭い棚の間を早足で歩きつつ、目を走らせる。 2本ほど選んだ時点で、とあるタイトルが目に入った。 「あ、今日は借りれるな」 手を伸ばしてから思い出す。そう言えばラブロマンスだった。サスペンス仕 立てとはいえ、男が一人で借りるものじゃないか? 一応これも借りて帰る これは止めて、2本だけ借りて帰る |
ビデオ3本を借りて、急いで帰路についた。 アパートの階段を登りかけて、ふと引き返す。郵便受けを見たが、なにも入っ ていなかった。 部屋に入って電話を見る。留守電は入っていない。買ってきたビールなどを 冷蔵庫に入れながら、友達のいない寂しい人間みたいだなと苦笑する。 少し落ち着いたところで、テレビを点けた |
テレビの中でも夏は真っ盛りだ。いつもは静かな山間が、夏休みを利用した 行楽客でごった返している。 「ったく、こんなとこに出かけるなんて気が知れないな」 一人つぶやく。 窓の外を話し声が通り過ぎる。点けたばかりのクーラーは、勢い良く冷気を 吐き出している。テレビに映った人々は、照り返しに顔を焼かれ、必死に汗を 拭いながら歩く。まるで別世界だ。 腹が減ったので弁当を食う なんとなくテレビを見続ける |
ブラウン管に真新しい建物が映った。なんとかっていう有名人にちなんだ新 しい美術館だ。こんな田舎に作って誰が来るんだとか思っていたが、意外にも ごった返している。 「どうでもいーじゃねーかよ」 テレビの笑い声に思わず吐き捨てる。話し相手はテレビぐらいだ。 「つまんねぇなぁ」 ふと、愚痴とおぼしき言葉がもれた。 ふて寝してしまう 気分転換にビデオでも見る |
物音で目覚めると、辺りは真っ暗だった。 玄関からゴソゴソと音がする。首をもたげると、パッとライトが点いた。 「ただいま〜。居たんだぁ。真っ暗だから居ないのかと思った」 今にも倒れそうな声だ。そのまま、床にべたりと座り込む。 「疲れたぁ。あー涼し〜。やっぱりこっち暑いよねぇ。あ、いいなぁビール」 「冷蔵庫にまだある」 「ほんと? 嬉しいなぁ。もらうね。あー! 可愛い。このケロケロ。取ったの? もらっていいかな。あ、そうだ。絵はがき送ったんだけど届いた?」 「来てない。あ、俺にも一本取ってくれ」 「そか、じゃあ明日かな。あー、でも帰ってきて良かったぁ。ビールはあるし、 クーラーはあるし、ちょっと落ち着いたなぁ」 部屋の中が、急に日常へと戻った |
買っておいた弁当を開け、ビールを取り出す。 ブラウン管に真新しい美術館が映った。こんな田舎に作って誰が来るんだと か思っていたが、意外にも行楽客でごった返している。 「ご苦労なこった」 大汗をかく人々につぶやく。部屋の中は、クーラーのおかげですっかり涼し くなっている。あの混雑の中に放り込まれると思えば、こうして家の中でゆっ くりしている方が利口に違いない。 こんな休日も、まあ、たまにはいいんじゃないだろうか。 終了[エンド2] |
部屋に帰ると、借りてきたビデオをセットする。 一人寂しくビデオ上映会の始まりだ。 傍らにはツマミとビール。クーラーのおかげで、部屋はすっかり涼しくなっ ている。両隣の住人はいないようだし、周りを気にせず、声を上げながら見て やろう。 こんな休日も、たまにはいいか。 終了[エンド3] |
「明日帰ってくるんじゃなかったのか?」 「んーそのつもりだったんだけど、なんとなく…ね。そうだ、新しい美術館に 行ったよ。すごく混んでた。同窓会も楽しかったし。みんな元気そうだった。 信治も帰れば良かったのに」 「ん〜…」 「たまには帰った方がいいと思うよ。みんなも会いたがってたし。卒業してか ら、もう8年ぐらい会ってない人だっているでしょ?」 「まぁな…」 「……あ、あとね、ヒジリ様のお祭り! 浴衣着て。金魚すくいやったんだけど 全然取れなくて、おじさんにオマケで一匹もらったの。だけど飼うとこがな くて、結局洗面器で飼ってるの」 「へぇ…」 「あ、ビデオ。これ借りといてくれたんだ。この前は貸し出し中だったもんね。 あたし見たかったんだ。今見よっか。いいよね」 「……里砂」 |
「正月ぐらい、一緒に帰るか」 「…うん」 終了[エンド1] |