[ゲームスタート] |
ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 夏祭りの夜が来た。 ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 裸電球と喧噪のナイトウェーブ。 夜店がぎゅうぎゅうに並んでる。 ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 あ〜、お腹が空いた |
ぷ〜んと漂ってくる暴力的な匂い。 正体は夏祭りの定番。たこ焼き。 ソースをどばっとかけて、のりをぱぱっと散らして。 美味いんだな、これが。 ううっ、我慢できない… いや、我慢我慢… |
列に並んで順番を待つ。やっと自分の番。 おじさん、タコたくさん入れてよ。 焼きたてでホカホカのたこ焼き。 口に放り込めば、ほくほくであつあつ。至福の時。 「よく食うなぁ」 友人の呆れ顔。たこ焼きはあっという間に減っていく。 三軒先からイカ焼きの匂いがした。 金網の上でじゅぅじゅぅ音を立てている。 食べちゃえ食べちゃえ! 程々が肝心! |
イカ焼きは匂いと音が肝心。 じゅぅじゅぅってタレの焦げる音と匂いが、なんともそそられてしまう。 一本買って、がぶりとかぶりつく。 「食ってばっか…」 友人はため息と呆れ顔。残りのたこ焼きをつまんでいる。 次の屋台はトウモロコシ。 丁度良い焼き加減になっている。 買っちゃえ買っちゃえ! まだイカが半分残ってるし… |
屋台の誘惑には勝てない。 半分残ったイカを口にくわえて、早速注文。 「おいおい、大丈夫かい?」 屋台の主人が苦笑する。 まだまだ全然大丈夫! お腹一杯だしもう満足 |
串焼きに杏飴にたい焼き。 片っ端から買っては抱え込み、頬張る。 いつの間にか友人はいなくなっている。薄情者! お好み焼きとクレープも追加。りんご飴も。 端から見れば自殺行為とも思える食欲。 あっという間にお腹はパンパン。 それでも大口を開けてかぶりつく。 賑やかなお祭り。楽しいはずのお祭り。 なにやってるんだろうって、ほろりとした。 馬鹿みたい… |
誘惑をぐっと堪えて人混みを歩く。 「あいよっ、毎度ありっ!」 威勢のいい声。たい焼き屋の屋台からだ。 こんがり狐色のたい焼きが仲良く並んでる。 あんこが一杯。尻尾まで詰まってる。 かじりつくと、あんこが湯気を立てるんだよね。 美味しそうだなぁ… 我慢我慢… |
いやいや、誘惑に負けてはいけない。 斜向かいに、りんご飴が見えた。 子供の頃、母親に買ってくれとせがんだ。 これぐらいならいいかな 絶対我慢だ |
お隣からは甘栗の香ばしい匂い。 機械の中で、たくさんの栗たちがザラザラ回っている。 一つ一つ、パキッと割って殻を剥いて、口に放り込む。 この面倒臭さがまたたまらない。 爪の隙間が汚れるのが難点。 もう我慢できない! ううっ、我慢って言ったら我慢 |
あ〜美味しい。 夏祭りはやっぱりこうでなくちゃ。 我慢は良くないよね。 一つ食べるとお腹が空いて、もう一つに手が伸びる。 今度はあれも食べてみようか、それとも… ちょっと腹ごなししようかな |
「スゲェなぁ…」 突然の声。振り返ると驚いた顔があった。 驚きっていうより、呆れ顔。 「それ…一人で全部食うのか?」 「は、ははひふん…」 思わず呟いたけど、口はモゴモゴとしか動かなかった。 一杯に頬張ったものをごくりと飲み込む。 「うっ! うぐっ、んがががっ…んぐぐぅ…」 「お、おいおい。大丈夫かよ。ほら、これ飲め」 うぐっ………ごくん。 危うく窒息死するとこだった。しかも人生最悪のシチュエーションで。 「田村さんがそんなに食いしん坊だとは知らなかったなぁ」 が〜ん、なにもこんな時に見つからなくてもいいのに。 ショック… |
「佐々木君は…一人なの?」 「ハイハイ、どうせオイラは独り者ですよ」 「あああの、そうい意味じゃ……えぇっ!? あの、さっきの人は?」 「へ? …ああ、姉貴のこと? 見てたんだ」 「お姉さん!? そうなの?」 「ははは、姉にゃ見えねーよな。チビだし童顔だし胸ねーし音痴だし」 「あ、そうじゃなくて…えーっと、可愛い人だよね」 「みんなそう言うんだよなぁ。実態知らないからだぞ」 「そっか…お姉さんだったのか……」 「そう。まったくもう。で、田村さんは一人?」 「あ、ううん。千賀ちゃんと一緒だったんだけど…」 「ひょっとして田村さん…迷子?」 「え、ええぇっ!? ああああの…」 「あははは。冗談冗談。一緒に探そうか?」 「え…い、いいの?」 「全然オッケー。どうせ暇だし。独り者同盟っつーことで。行きますか」 びっくり… |
夏祭りの喧噪の中、肩を並べて歩く。 腕の中には食べかけのイカとトウモロコシと、その他諸々。 「田村さんってクラスでもあんまり喋らないだろ? どんな人かな〜って思ってたんだけど、こんなに面白い人だとはね。 そうだ、今度オレらで花火大会やるんだけど来ない? 夏休み最後の思い出っつーことで。 田村さんがいると楽しそうだ」 ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 夏祭りの夜は過ぎていく。 ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 二人肩を並べて歩いた、初めての夜。 終了[エンド1] |
何処からともなくたこ焼きの匂い。暴力的に鼻をくすぐる。 はぁ…お腹空いた。 「なにを百面相やってるんだ?」 振り返ると、目の前にたこ焼き。 …を持ったマヌケ面。 「遅い。何分かかってんのよ」 「わりぃ。途中で友達に会ってさ。ほら、たこ焼きやるから、なっ?」 「いらない」 「なんだよ、またダイエットか? ひょっとして昨日のこと気にしてんのか?」 「うるさい。どうせ私は太ってますよっ」 「えーっと…ほら、少し太ってる方が浴衣は似合うぞ」 「そんなの慰めになってないでしょ!」 ぐ〜。お腹が鳴った。怒って力が入ったせい? 「あははははははは、マ、マンガみてぇな奴」 豪快に笑い出す。死ぬほど悔しい。 穴掘って埋まりたい… |
お腹が満たされたら、腹ごなしに金魚すくい。 ボンボン釣りをやって、クジを引いて。 夏祭りの夜はあっという間に過ぎていく。 夏はやっぱり、夏祭りだね。 終了[エンド3] |
「ほら、我慢してないで食えよ。別に太ったからって嫌いになったりしないって」 「太ったって言うな」 「あ、悪い。でも本当に気にする必要ないって。和美はいつでも美人だろ?」 「…」 「ようし、かき氷も付けよう。それでどうだ?」 「…」 「焼きイカなんてどうだ?」 「…」 「トウモロコシも美味そうだよな」 「…」 「たい焼きとか?」 「…」 「よっ、お嬢さん、その浴衣似合ってるよ! うなじなんて特にグー!」 「…」 「薄化粧も素敵だね! 男が黙っちゃいないねっ!」 「…」 |
「寂しいねぇ。和美は口効いてくれないし。オレの人生最悪だよ」 「…」 「しょうがない、これも捨てるか。さらばだ、たこ焼き君」 「えっ!?」 「ウッソーン。ふふぅ〜ん。どうしよっかな〜、捨てちゃおっかな〜」 「あ、しまった……え、えーっと……」 「食うか?」 「………食べる」 「よしよし。好きなだけ食べてくれ」 ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 夏祭りの夜は楽しいね。 ピーヒョロ、ピーヒョロ、ドンドンドン。 二人ならもっと楽しいね。 終了[エンド2] |